7100店舗を一斉休業し、看板に掲げたこと
2008年2月26日午後5時30分、スターバックスは米国内の7100店舗をすべて休業にし、3時間かけてスタッフの再教育を行い、大逆転を開始した(この休業による売上損失は600万ドル(当時のレートで6億円程度=編集部註)を超える)。
スターバックスの各フロントドアには、こんな看板が掲げられた。「エスプレッソを完璧にするために時間をかけています。素晴らしいエスプレッソを提供するには訓練が必要です。だからこそ、私たちは技術を磨くことに専念しています」
シュルツは研修の冒頭の短いビデオで従業員に語った。「これは、会社のためでもブランドのためでもない。君のためだ。自分自身でエスプレッソの出来を判断してほしい。私は君たちを全面的に支持するし、最も重要なことだが、私は、君たちに信念と信頼をおいている。1杯の完璧なエスプレッソによって我々の行動を評価していこう」と。
シュルツは後にこう回想している。「あれは、スタッフの心をひとつにする出来事だった。急成長だけに夢中になっていた数年間に失ってしまった、感情的なつながりと信頼を再びとり戻すための、重要な転換点となった(※9)」
史上初の赤字から売り上げを倍増させた
スターバックスが経験したような運命の逆転に直面した企業の中には、非中核事業への投資を削減することで、コスト削減を図るところもあるだろう。だが、スターバックスはそうしなかった。スターバックスは努力を倍加させた。財団も閉鎖しなかった。2010年からはフードバンクに定期的に寄付を行っている。
その他の新たな取り組みとしては、スタッフへのオンライン大学学位の無料提供(2014年から)、ジム会員割引(2018年)、使い捨てプラスチックストローの禁止(2020年)、1億ドル基金の設立、地元企業の発展を支援するために年間1000万ドル、コーヒー生産地域の支援のために年間200万ドルの寄付(2020年)などがある(※10)。
2013年、スターバックスは史上初の赤字を計上した。しかし、こうした戦略が功を奏し始めた。消費者はスターバックスの目的を再認識し、スターバックスの商品に再び惚れ込んだ。スターバックスの売上はその後8年間で倍増し、2021年には、世界84カ国の3万3000店舗から290億ドルの売上と50億ドルの利益を計上したのである。
企業の包括的な目標を設定するだけでは十分ではないことを、肝に銘じておく必要がある。