日本は世界で最も「100年企業」が多いことで知られている。創業家出身者など、プロパーの人間が経営を受け継ぐことに問題はないのだろうか。キングストン大学のアレックス・ヒル教授は「私はこのような企業を『センテニアルズ(100年活躍する組織)』と呼んでいる。ハーバード大学が世界の大企業1200社のCEOの業績を調査したところ、興味深い結果がわかった」という――。

※本稿は、アレックス・ヒル、小山竜央(監修)、島藤真澄(監訳)『センテニアルズ “100年生きる組織”が価値をつくり続ける12の習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

会議室に佇むビジネスマン
写真=iStock.com/Martin Barraud
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組織は「挑戦者」と「保護者」に分けられる

百年組織センテニアルズは、2つの異なる役割の間で慎重なバランスを取っている。イノベーションと変化に不可欠な「破壊的イノベーター」(常に疑問を投げかけ、挑戦し、物事を前に進めようとする人々)と、組織の文化の最良の部分を保持し、軌道を外れないようにする「安定したスチュワード」(組織の保護者)という役割である。

組織の3分の1から3分の2を占めるのが、「破壊的イノベーター」である。組織は彼らが最高の成果を発揮できるよう、さまざまな役割を持たせたり、異なるプロジェクトに参加させたりする。

「安定したスチュワード」は一般的に、チームが50人から70人で構成されるような大きな組織の4分の1を占める(残りの10分の1から2分の1は、物事を成し遂げる「有能な実行者」である)。彼らはフルタイムで組織のために働き、組織全体に広がっている。

王立音楽院では、校長、学科長、音楽講師など、長年にわたってこの教育機関に貢献してくれる人材を求めていた。そのような安定したスチュワードは、きまって控えめで謙虚、自分が成し遂げたことよりも、見逃してしまったかもしれないことを気にしている。彼らの関心は今ここにあるものよりも、後に残るものにある。

CEOの報酬は超高額になったが、失職者も多い

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのエグゼクティブ・ディレクター、キャサリン・マリオンは、彼女の立場を私にこう説明した。「この役を引き受けるのは、大切な花瓶を手渡され、それを手に持ってスケートリンクを歩くように言われるに等しいものでした。私の仕事は、それを大切に運び、安全に保管し、次の人にそっと渡すことです。そして、それは決して忘れられない感覚でした(※1)

近年、企業はこのような人材の重要性を軽視してきた。特にCEOをはじめとする経営層は、常に「新しいもの」を追い求める傾向がある。20年前には、米国のトップ500企業の平均的なCEOの在任期間は少なくとも10年だったが、現在では5年に過ぎない。この変化の背景には、利益と株主価値の向上が重視されてきたことがある。その結果、CEOの給与は過去40年間で20倍になり、毎年平均1900万ドルになった。これは、彼らが管理する従業員の平均給与の300倍に相当する(※2)

しかし、彼らに課されるプレッシャーも指数関数的に大きくなっている。多くのCEOは与えられた野心的な目標を達成できず、在職期間もそれに応じて短くなるのだ。2019年に失職した米国のCEOは1600人を超え、この数字も過去20年間で倍増している(※3)