※本稿は、アレックス・ヒル、小山竜央(監修)、島藤真澄(監訳)『センテニアルズ “100年生きる組織”が価値をつくり続ける12の習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
職場のカフェや共同スペースは無駄ではない
対照的な人々を特定し、一緒に配置することは、始まりに過ぎない。結局のところ、異なるグループを一緒にするだけで、協働をうながすことができるという保証にはならない。
彼らの日課や決まりごとを活用し、協力を促す必要がある。会議室やコーヒーマシンを移動し、職場の中心に据えれば、効果が表れるかもしれない。
また、カフェの小さなテーブルをより広々としたものに取り替えたり、特定の日に共同スペースで無料の飲食物を提供したり、一緒に休憩時間を過ごせるように、デスクで1人、食事をとることを禁じるルールを設けたり、廊下を片付けて人々が立ち止まっておしゃべりしやすいようにしたり、各ビルの入り口を1つにしてスタッフ同士が出会いやすいようにしたりすることも、検討する価値があるだろう(※1)。
このアプローチを完全に体現している場所として挙げられるのが、カリフォルニアのピクサー本社である。この建物は、1999年にスティーブ・ジョブズが再設計し、映像には携わらないジョブズが作り上げた「スティーブによる映画」とも言われている作品である。
なぜ全員を一つの建物に集めたのか
ジョブズは、1996年末、アップルに復帰する前後の数年間、ピクサーに密接に協力していた。ピクサーは、日常業務はチームの自律性を保ちつつも、オフィスの再設計に関してはジョブズの想像力や洞察力を活用したいと考えていた。
ジョブズはさまざまなアイデアを試した。ピクサーのクリエイター、エンジニア、経営陣を3つの別々の建物に配置するというアイデアや、制作中の各作品にそれぞれ専用の建物を与えるなどである。しかし、ロッキード・マーチンを訪れ、ジェット戦闘機や偵察機の開発に携わる極秘部門スカンクワークスに触発されて、彼は全員がひとつの建物で常に一緒に働くべきだと考えるようになった。
ジョブズは次のように言う。「ネットワーク時代には、電子メールやチャットでアイデアを発展させていくと考えがちだ。しかし、それは馬鹿げた考えだ。クリエイティビティは、偶然の出会いやカジュアルな会話から生まれるものだ。誰かに会って、何をしているのか聞いてみて、『すごい!』と刺激を受け、そしてすぐに、いろいろなアイデアが浮かんでくるようになるのだ(※2)」