“働きに応じて給料をもらう”ことが染みついている
今年(2024年)の自民党総裁選で、解雇規制の緩和がテーマの一つにあがりました。議論が深まらないまま立ち消えになった印象ですが、結論から言うと、私は解雇規制の緩和は時期尚早だと考えています。
もともとソニー・ミュージックエンタテインメントで働いていた私は、30代半ばでニューヨークオフィスに赴任しました。その翌年にPlayStationの北米発売に関わったことを契機に、06年にソニー・コンピュータエンタテインメントの社長になるまで長らくアメリカで働いていました。
海外経験が長かったせいか、私自身にはペイフォーパフォーマンス、つまり働きに応じて給料をもらう雇用・賃金体系が染みついています。
経営の視点でも、ペイフォーパフォーマンスはやむを得ない面があると考えています。日本企業では、年功的な賃金体系で高い給料をもらっているのに、それに相応しい仕事をしない“働かないおじさん”が批判の的になっています。実際、みなさんの組織にも「この人辞めたら働き口あるのかな」と感じるような“働かないおじさん”がいるかもしれません。
「働かないおじさん」が“チーム全体”の力を落とす
“働かないおじさん”の是非はプロ野球球団にたとえるとわかりやすい。かつてホームランを何十本と打って活躍した選手を、打てなくなった後もかつての報酬で雇い続けたらどうなるか。
その球団は他の有望な選手に高い報酬を提示できなくなり、チーム全体の力を落としてしまう。企業も本来はペイフォーパフォーマンスで処遇することによって、戦う集団になるでしょう。
ペイフォーパフォーマンスの考え方は日本文化に馴染まないという声もありますが、日本のプロ野球は昔からペイフォーパフォーマンスでやってきて、WBCでは世界一にもなりました。ペイフォーパフォーマンスだからチームプレイできないというのは間違い。スポーツでできてビジネスでできない理由はないと思います。
ただし、だからといってドラスティックに解雇規制を緩和することには反対です。パフォーマンスが落ちた人に外に出てもらえば、その人はどうなるのでしょうか。労働市場の流動性やセーフティネットのない状態で組織の外に出たら、ネガティブなインパクトが大き過ぎます。
解雇規制緩和と、出口における手当てはワンセット。それも一気に進めると危険なので、一歩ずつ進める他ないと思います。