※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 18杯目』の一部を再編集したものです。
日本人の8割以上が経験する「腰痛」の正体
腰痛とは、腰に生じる痛みや張りなど不快に感じる症状の総称である。日本における腰痛の患者数は約2800万人と推定され、日本人の8割以上が生涯において腰痛を経験するという。まさに国民病の一つと言える。
腰が痛いと感じたとき、まず整形外科医の扉をたたくことになる。
しかし、とりだい病院整形外科講師の谷島伸二は、整形外科に来た患者さんすべてが腰の病気とは限らないという。
「腰が痛いと言っていても、お尻のあたりを押さえていたり、背中の真ん中をさわっていたりとバラバラ。体の後ろが痛いという人は、全部腰だと思って整形外科にやってくるんです」
そもそも、腰の定義は国によって違う。肋骨の下からお尻の上までを腰とする国もあれば、お尻を含める国もある。日本では肋骨の下からお尻の下、すなわち腰椎のあたりだ。
腰椎とは、脊柱を構成する椎骨のうち腰部にある5個の骨を指す。脊柱は身体の軸となる、いわゆる背骨のことだ。脊柱は7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨が連なってできている。
「例えばMRIで腰椎がおかしいと分かったとします。腰椎にある椎間板の何番目が悪いのか、それとその原因はどこにあるのかを探るのがぼくたちの仕事です」
MRI検査とは、磁場と電磁波を使って身体の断面画像を撮影する検査だ。整形外科医の大切な仕事は、患者との会話――問診であるというのは、とりだい病院整形外科教授の永島英樹である。
「脊柱は身体を支え、身体を動かすときも重要な役割を果たしています。そして重い脳みそを支えています。身体を動かせばどうしても負担がかかってくる。例えばぼくたちがジャンプして上から飛び降りるとします。そのとき衝撃を吸収しているのが椎間板」
椎間板は、椎骨と椎骨の間にある板状の軟骨組織である。
「椎間板というのは本来、水分をたっぷり含んでいるんです。弾力性があるからショックを吸収できる。若い頃の椎間板はスポンジのようなものです。人間の身体というのは18歳頃をピークに下っていく。弾力性があったスポンジも当然傷んでいく」
年をとると背が縮むのも、椎間板や椎骨が潰れていくからだ。
「人間の身体も自動車と同じ。長く走れば必ずパーツの調子が悪くなったり、壊れたりすると理解してください」