人間だけが持つ自己実現欲求
マズローによれば、人は寝ることや食べること、雨露をしのぐことといった低次元の欲求(図の「基本的欲求」「安全欲求」)を満たし、社会や企業への帰属を確かめる「帰属欲求」を満たしたのちに、上司や周囲からの承認・賞賛・尊敬を求める(「承認(自我)欲求」)。そのうえで、自らこうありたいと願う存在になろうとするのである(「自己実現欲求」)。
大事なことは、下位の欲求と比べて自己実現欲求だけは別格であるということだ。承認欲求以下は動物にも当てはまるが、自己実現欲求だけは人間にしか見られないからだ。
マズローが警告を発した50年代のアメリカ社会には、ほかの何が満たされても自己実現欲求だけは満たされていないという問題があった。現代の日本社会も同じ病に悩まされている。
たとえば「金儲け」を目的に掲げることは、ほとんど基本的欲求に属する低次元の欲求だ。ホリエモン騒動や村上ファンド事件といった出来事を思い返せばよくわかる。それに振り回されたのが最近の日本である。「金儲け」資本主義の本家であるアメリカでは、それが高じて金融バブル崩壊に至ったのである。
では、問題解決のために企業の現場ではどう対処すべきだろうか。現場のリーダーが部下を動かすために何をすべきか、という観点から考えてみたい。
いうまでもなく、部下に対して自発性を持たせることが最終の目標である。言葉を換えれば、自己実現欲求を駆動力として、高い士気を持って仕事に立ち向かわせるということだ。
しかし仕事には華やかな表の仕事があれば、地味な裏方仕事もある。もちろん、一見地味でも、当人に適性があれば自発性を持たせることは難しくない。
だが、多くの仕事は裏方であり、かつ当人の適性に適うものとはいえないだろう。
その際には、マズローのいう「承認欲求」を思い出してほしい。テーマと目標数値を与えるだけではなく、部下がそれを達成したときの「承認」「賞賛」が大切である。とくにいまの職場は、成果主義の浸透などで「できて当たり前」という空気が強く、部下の承認欲求をほとんど満足させていない。
「よくやったな。いままでできなかったのに、ここまでクリアしたのか。すばらしい!」
この言葉がどれだけ部下を勇気付けることだろう。仕事の意味を徹底して教えることと同時に、当人に達成感を与えることを忘れてはならないのだ。
※すべて雑誌掲載当時