「完璧」でないことを正直に
この企業トップの発言で特筆すべきは、自分たちはすごいことをやっているとはひと言も言わず、むしろ「これで100%の解決にはならないが……」という言葉にも表れているように、自分たちが行うことは完璧なものではないと明言していることです。
外装変更も、『キットカット』全出荷量ではなく、削減できるプラスチックは年間380トン。しかも、紙への変更は「外装」のみで、中の個包装は従来のプラスチックのままです。中の個包装は湿気を防ぐためにプラスチック製のままにする、つまり「品質を守るためである」と、外装パッケージにも明記されています。
このように完全ではないにもかかわらず、堂々と記者会見を行い、繰り返しテレビのニュースで報道されることで社会に広くアピールされました。
その翌日、私はたまたま、ネスレ社の競合会社にあたる某菓子メーカーのサステナブル関連の担当役員の方とお会いしたのですが、そのときに『キットカット』の報道にも話題が及びました。
その役員の方も、「本当にうまいですね。わが社では、もっと以前から(プラスチック削減を)大規模に取り組んでいるんですが、トップがそういうことを外に言わないから……」と苦笑していました。
「言う・伝える」ことは誠実さの証し
トップがそういうことを公表したがらないという例は、実はよくあるパターンです。
確かに、日本人にはよいことは黙ってやるのが美徳(陰徳)、という価値観があります。しかし、プライベートではそれでよくても、ビジネスの場では割り切らないといけません。
また、やっていることの規模の小ささや不完全さを恥じて、もっと完璧と言える域に達してから公表するという経営者もいますが、では、それはいったい、いつになるのでしょうか。日本の温室効果ガス80%削減目標のゴールは2050年。あと25年近くありますが、完璧をめざしていたら、その目標を達成するまで何も言えなくなってしまいます。
小さなこと、不完全なことを公表することのリスクを不安視するくらいなら、完全になるまで何も言わないリスクを不安視すべきです。企業の取り組みに対して、世の中のユーザーや消費者はスケールの大きさや完全であることだけを求めているのではありません。
「小さなこと・不完全なこと」を包み隠さず伝えることで、誠実な会社として共感・賛同・応援してもらえるのです。
換言すれば、小さいこと・不完全なことでも誠実に伝えることが、ユーザーや消費者にとって付加価値になるということ。何も言わないでいる間は、せっかくの付加価値を放っておくことになります。これは大きな損失、逸失利益です。