2011年の箱根駅伝で18年ぶりに総合優勝を果たし、初の大学駅伝三冠を達成した早稲田大学。チームを率いる渡辺監督は、「天才ランナー」と呼ばれた往年の名選手だ。7年間の監督経験から、選手との信頼構築のコツを探った。

間違った指示後のフォロー

早稲田大学競走部・駅伝監督 
渡辺康幸氏

ミスったと気づいたときにどうするか。そこに指導者としての器が試されます。

指示ミスといって思い出される僕の経験は2009年の箱根駅伝です。08年2位の早稲田は、北京五輪に出場した竹澤健介が主将を務め、戦力的に見ても有力な優勝候補でした。その復路がスタートする2日目の朝のことです。

前日の往路で早稲田は2位。1位の東洋大学から22秒差で復路をスタートします。6区を走る加藤創大は、前年に区間賞を取っている山下りのエキスパート。ここで東洋大を抜いて大きく差を開けば、逆転優勝できると確信しました。

「22秒差は楽勝だ。序盤で一気に追い抜いて差を広げろ」

スタート前の加藤にそう指示しました。この作戦に勝機を見出したつもりでしたが、実は冷静さを失っていたのです。

加藤は指示通りに走り、3キロ過ぎで東洋大の選手を抜きました。しかしそのオーバーペースがたたって腹痛を起こし、トップで襷を繋いだものの、2位との差はたった18秒でした。この残念ムードは7区以降の選手にも影響しました。

試合後、加藤本人にも他のメンバーにも素直に謝りました。

「下りの前半が速すぎたのは俺の指示。あれがすべてだった」

指示ミスは、上に立つ人間としてカッコ悪いものです。「威厳を保つために自分の非を認めないほうがいい」という上司もいますが、チームとして成果が出なければいつまでも敗軍の将です。