ムリをさせるとき

昨シーズンの早稲田は、例年以上の猛練習を積みました。特に箱根駅伝の前は、主力選手に故障者が出たほどハードなものでした。早稲田には「すべてこなせば箱根で優勝できる」という伝統的な練習スケジュールがあります。以前は疲労の蓄積と故障を恐れて一部を省きましたが、昨シーズンはほぼすべて実施しました。肉体が悲鳴をあげ、ぶっ壊れる寸前まで、チーム全体を追い込んでいったのです。(※雑誌掲載当時)

きつい練習はチーム全員で取り組みますから、自分だけ休むわけにはいきません。1人だけ逃げられない環境をつくるということです。そこで監督はおだてたり励ましたり、いろいろな言葉をかけていきます。

「ライバル校も同じぐらいやってるよ」

「ここで苦しんでおかなきゃ」

真剣な表情で、前向きな言葉を投げかけると選手は発奮します。

個別のアドバイスは、当然ながら相手を見て言い方を選んでいます。例えば、故障しやすく心配性の選手や、性格が暗い選手には、特に密で細かいコミュニケーションを心がけます。「元気?」と声をかけて「おまえ、生きてるんだか生きてないんだか、わからないな」とわざとつっけんどんに言ってみたり、あるいは日常生活について尋ねたりします。

「いつも部屋で何やってるの?」

「何もやってません」

「何もやってないわけないだろ。ゲームやったり本を読んだりしないの? エッチ本くらい読んだほうがいいぞ」

そんな会話のキャッチボールで、選手が心を開いてくれることもあります。