オン・ザ・ジョブだけでは本当の実力は身につかない――。
これが私の持論の1つです。たとえば出版業界で働いている人でも、著作権法を読んだことがある人はほとんどいないと思います。それはオン・ザ・ジョブでは出てこない。
オン・ザ・ジョブによって右から左に仕事をこなす能力は上がります。しかし、自分の仕事の本質部分を勉強するのはオン・ザ・ジョブでは限界がある。本当にいい会社はそういうことを勉強させるトレーニングプログラムを備えていますが、ほとんどの会社は持っていません。持っていたとしても、きっかけづくりぐらいにしかならないものです。
経営者の大部分は財務諸表をある程度読めます。しかし、財務諸表論の本をきっちり読んだことがある人はまずいない。財務諸表の読み方の基本を勉強している人は少ない。それはオン・ザ・ジョブでは学べない。だから講演で若い人たちにいつも言うのです。「休みの日に勉強しなさい」と。
自分の仕事にかかわる本質的な部分、自分の仕事の根幹をなしている基礎の部分を勉強し、仕事の理論づけ、背景づけがきっちりできている人はものすごく成長します。休みの日でなくても、週に1時間でも2時間でもいい。
忙しいときはなかなか本質的な勉強をする暇がありません。しかし、これからはそれがしやすくなる。残業がなければ飲みにいこうという話になるし、土日は休まないとリフレッシュできないという人もいるでしょうが、それでは忙しかった頃と何も変わらない。週に1、2時間でもいいから本質的な勉強をする時間を持つべきだと思います。それを専門書の通読レベル2や熟読などの読書に充ててください。
踏み込んで勉強したことは必ず役に立ちます。私は「ものが売れない」と嘆いているクライアントには、「5つのPで分析したらどうですか?」とよくアドバイスします。
マーケティングの5つのPをご存じですか?「Products」「Price」「Place」「Promotion」「Partner」の5つです。
もしネットに売り上げが食われてしまっているとしたら、Place、すなわち流通の問題であって、そこを改善するなり、新しい作戦を考えればいいと判断できます。こうしたことは誰でも漠然とは気づきます。しかし、「5つのP」のような切り方、フレームワークを持っていると問題点に早く到達し早く解決することができます。
このようにマーケティング理論の本質をちょっと勉強しておくだけでも一生使えます。現象をインプットすれば簡単に分析できます。あとは経験の問題。繰り返しながら能力を高めてゆけばいいわけです。
経営コンサルタント。京都大学法学部卒。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行、米国ダートマス大学経営大学院にてMBA取得。2005年から09年3月まで明治大学大学院会計専門職研究科特任教授。1996年より現職。『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』など数々のベストセラーをもつ。