本質を学ばず、基本的なことを知らないでいると、浅い思考といっては申し訳ありませんが、現象に振り回される人生を送らなければならなくなる。企業を見ていてもそうです。いろいろな問題が起きる。しかし、きちんと分析すれば解決策は見出せるのです。
私たちの人生も同じです。人生にも本質がある。人生の本質とは価値基準です。それは、自分の人生で何を一番大切にするかという優先順位です。それをしっかり持っていたら人生に振り回されない。
家族が健康に暮らせればいい、ということが優先順位の一番だと思えば、リストラされたり、給料が下がって今までのような暮らしができなくなっても、前を向いて生きてゆけます。ベンツを手放したら人生が終わったように思う人がいますが、そんなものは車輪が4つついた箱でしかありません。自分に確固たる価値観がない、優先順位が定まってないから、ベンツオーナーというステータスを失った途端に人から見下されるんじゃないかと気に病んでしまう。
自分なりの価値観、人生の優先順位を築けるかどうかは、どれだけいい本に出合い、重読してきたかにかかっていると思います。しんどいときに耐えられるかどうかは、しんどくないときに鍛えているかどうかなのです。
松下幸之助さんの嫌いな言葉の1つは「七転び八起き」でした。最初から七転びすると思っているから転ぶ。いつも真剣勝負。本の読み方も同じだと思います。切羽詰まって真剣に読んだときは、心に染み入る染み方が違う。
私は自分で会社を経営しているし、十数社の役員をしているし、従業員やお客様に対する責任もあるので、普通の人とは経営書の「読め方」が違います。「読み方」ではなく、「読め方」です。
向上心を持っていれば本の読め方が違ってくるし、もっといろいろな本を読んでみようと思う。是非「これだ」という本を見つけて、重読を増やしてください。
心に響く、自分の心のバックボーンになる本を何度も繰り返し読む。こういう時代だから皆、急いで何かを得ようとする。でも急いでは決して力を得られません。急がば回れ。しんどい時代だからこそ、時間をかけて通読、熟読、重読して、頭の実力と心の実力を蓄えてほしい。
最後に今の時期にお勧めしたいのは本当に成功した人たちの本。私は最近読んでよかったのは、羽生善治さんの『決断力』と阪神の金本知憲選手の『覚悟のすすめ』。それから京セラの稲盛和夫名誉会長の『生き方』です。自分が志した領域でやりたいことを成し遂げた人たちの“生き方”には人生の本質がある。即効薬ではありませんが、大いに勉強になると思います。
経営コンサルタント。京都大学法学部卒。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行、米国ダートマス大学経営大学院にてMBA取得。2005年から09年3月まで明治大学大学院会計専門職研究科特任教授。1996年より現職。『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』など数々のベストセラーをもつ。