2025年の国民の暮らし向きはよくなるのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「25年は日米金利差が縮小に向かい、その分、円が買われる可能性が高い。ファンダメンタルズでは円安要素が多い日本だが、来年は円安化がひと休みすることで、輸出企業中心に企業収益は頭打ち感に。インフレ状況はさほど変わらず、物価上昇以上の給与上昇は望み薄だろう」という――。

2024年のドル・円相場は一時1ドル160円をつけるほどの円安の年でしたが、現状は150円前後です。

一方、日米の金利に関しては、まず12月18日、19日に日本銀行の金融政策決定会合が開かれます。現状、0.25%を上限とする政策金利が引き上げられるのか、そうだとすればどの程度なのかに注目が集まっています。この会合での引き上げが見送られた場合も、次回の2025年1月23日、24日の会合では引き上げされるというのが市場の多くの意見です。少数与党で政権が弱体な中、日銀はあまり政治を意識することなく、金融の正常化を推し進めると考えられます。

米国でも12月17日、18日に中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会:日銀の金融政策決定会合に相当)が開かれます。こちらは現状、4.50~4.75%の政策金利がどれくらい下げられるのかが焦点で、0.25%下げ説が有力です。トランプ氏も金利安を望んでいると伝えられています。

24年は円安が進みましたが、金利差の縮小から25年は円高方向に動くのでしょうか。

金利差縮小で「円キャリー取引」が終わる

日本経済にも大きな影響を与える日米の金利差やドル・円相場の為替状況についてもう少し丁寧に見ていきましょう。

前回トランプ氏が大統領だった17~21年までのドル・円相場は、図表1にあるように110円程度かそれを切るくらいの水準でした。当時の米ドルの短期金利は1.3~2%程度でした。

日本の金利は当時の日銀の黒田東彦総裁のもとでの緩和策が続いていて金利はほぼゼロの状態でしたから、米国の短期金利が日米金利差そのものだったと言っていいでしょう。

もちろん、金利差だけでドル・円レートが決まるわけではありませんが、その後の円安は、金利差、またそれにともなう「円キャリー取引」の影響が大きかったと考えられます。

今後のドル・円相場を占おうとする時も、この円キャリー取引が鍵を握っています。

コロナが世界的に猛威を振るったのが20年からでその間は米国の金利は低下傾向でしたが、ウィズコロナの政策で徐々に経済が活性化するにともないインフレ率が上昇、22年2月にウクライナで戦争がはじまると、資源価格などが高騰をはじめ、世界的にインフレが起こりました。

米国でも22年6月には9.1%までインフレ率が上昇しました。インフレが激しかった23年には、政策金利は一時5.25~5.50%と現状よりかなり高い水準となり、一方、日本の政策金利はほぼゼロ状態でしたので、短期金利の差は5%以上ありました。

この水準では円を借りて即座に米ドルに換え、それで運用すると5%以上の金利差を稼ぐことができました。円キャリー取引が大量に起こり、大量の円売り・ドル買いが起こり、それも円安の要因でした。

一時は160円まで円が売られました。その際には、キャリーを行っている投資家は、金利差で儲かる上に、借りた円が安くなりますから為替でもダブルで儲かったのです。

その後、米国のインフレが収まるにつれ、冒頭で述べたように4%台半ばまで、政策金利(フェッド・ファンド金利オーバーナイト:1日だけ銀行間で貸し借りする金利)は下がっています。しかし、それでも日米金利差は4%強あり、この水準では円キャリーはある程度続けられていると考えられます。キャリーを行う場合には、金利差を稼ぐことができますが、為替レートが円高に振れれば、金利差でのもうけが一気に吹っ飛ぶ可能性上がり、4%程度の金利差が必要と一般的には考えられています。

前述した12月の日銀の政策決定会合で日銀が0.1%利上げし、FRBのFOMCで0.25%利下げすれば、日米金利差は4%程度となります。この金利差水準では、以前ほどの円キャリーは起こりにくいと考えられます。

そして、今後、25年に入り日銀が金利を上げ、米国が利下げをする流れを続ければ、円キャリー取引は消滅し、その過程でキャリーの巻き戻し、つまりドル売り・円買いが起こります。円高化の現象が起こります。