2024年7月、ドル円相場が一時161円台に達して37年ぶりの円安水準となった。この歴史的円安は日本人の暮らしにどのように影響するのか。慶應義塾大学の大西広名誉教授は「一旦『先進国』となった日本が、ここにきて再び『途上国化』している」という――。

※本稿は、大西広『反米の選択 トランプ再来で増大する“従属”のコスト』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

渋谷交差点を横断する人々
写真=iStock.com/Mlenny
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日本人の月給は韓国人より5万円低い

この円安の真の評価は「この国のカタチ」を円安がどのように変えるかといったもっと大きな視野からなされなければならないと私は考えている。

たとえば、ここまで円安が進んでくると日本は外国人労働者に選ばれる国ではなくなってしまう。そして実際、飲食店や居酒屋で中国人労働者の姿はとんと見られなくなり、カンボジアあたりでも、日本より韓国に行っている労働者数が3倍以上となっているらしい。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤真氏が掲げる表を切り抜きし(加藤、2024)、さらに2024年の推計を加えると図表1のようになる。

【図表1】外国人労働者賃金の日韓比較(月額)
反米の選択 トランプ再来で増大する“従属”のコスト』(ワニブックス【PLUS】新書)より

文在寅政権による大幅賃上げが韓国の競争力を削いだとの批判もあったが、「競争力」なるもの、人口減の下での競争力とは外国人労働者を引き付けるものでもなければならない。それにもかかわらず、日本の方は賃金も下がり、為替も下がる。「この国のカタチ」が壊れかけていることがわかる。

研究者からも日本は「選ばれない国」に

ちなみに、こうした低熟練労働者層の「買い負け」に限らず、高度技術者や大学教員層の流出も忘れてはならない。

私自身が近しい大学研究者から聞いた話でもあるが、アメリカの大学で助教(助手)をしている人物が日本の国立大学から教授として招聘された際、あまりの給与の相違を理由に断ってきたというのである。

日本ならせいぜい年間700~800万円程度の収入が(私も京大教授の時はそうだった)、アメリカの助手として現在1400万円程度をもらっているからということである。

異常な円安がこうした事態を招いていることを日本の政治家はどう考えているのだろうか。