ヘルスコミュニケーションの問題
学校健康診断(以下、学校健診)の時期がやってきました。毎年、この時期になると繰り返されるのが、学校健診において「脱衣」の必要があるかどうかという話題です。今年はSNSに「小学校の健診で児童が上半身裸で診察を受けた」ことに対する疑問の声が投稿されたのが発端となり、新聞などでも大きく報道されました。
そのなかで私が気になったのは、一部ではありますが、脱衣の必要性を訴える医療者と子どもの尊厳を守ることを訴える保護者がSNS上で対立したことです。本来、子どもの健康を守ることと尊厳を守ることは、両立可能なもの。医療者も保護者も、子どもを大切に思う気持ちは変わらないにもかかわらず、どうして対立してしまったのでしょうか。
私は、これは保護者と学校、子ども、医療者のヘルスコミュニケーションの問題だと考えています。合意形成のためには共通の理解が大切ですが、医療者と非医療者の間には医療知識に差があったり、同じ言葉でも受け取り方に違いがあります。その違いを理解し埋めていかなければ、この問題の解決は難しいのではないでしょうか。私たち医療者側も、学校健診についてまだ十分に伝えられていないのではと感じています。そこで、今回は学校健診について改めて振り返り、保護者と医療者とのギャップを少しでも埋めるお手伝いができればと考え、原稿を書くことにしました。
学校健診の目的は「スクリーニング」
まず、学校健診とはどういうものでしょうか。学校健診は、日本ならではの取り組みとして「学校保健安全法」という法律で実施が義務づけられていて、児童・生徒および職員の健康を維持・改善するために毎年5〜6月に一斉に行われます。
学校での集団健診という形を取ることで、非常に高い参加率を維持することができ、隠れた病気を高確率で発見できます。ただ、限られた時間でたくさんの人数を診てスクリーニング(ふるい分け)しなくてはならないので、一人あたりにかけられる時間が短いという制約もあります。
実際の健診では、身長と体重を測定し、低身長や栄養不良、栄養過多(肥満)がないかどうかをチェックします。以前は胸囲や座高も測定していましたが、現在は成長の評価には不要とされて行われなくなりました。そのほかにも聴診器を使って心臓や呼吸の音を聞く「聴診」、首を触ってリンパ節や甲状腺の腫れの有無を確認するなどの「触診」、皮膚状態などをみる「視診」はもちろん、背骨や四肢に問題がないかどうかみる「運動器検診」、「視力・聴力検査」、「尿検査(提出)」などを行います。また、入学するタイミングでは「心電図検査」も行います。