脱衣が推奨されてきた理由

こうした学校健診で、薄着や脱衣が推奨されてきたのはなぜでしょうか。それは着衣ではわかりづらい病気を見つけるためです。でも、それだけではピンとこないですよね。「着衣でも可能なのでは」という疑問にお答えしなくてはなりません。

まず、聴診時には、心臓と呼吸の音を正確に聴くことが重要です。衣類の上から聴診を行うと、その音が聞こえにくくなったり歪んだりするため、心雑音や呼吸音の異常を正確に捉えることが難しくなります。ある研究では、肌と聴診器の間に布があると呼吸音が平均5~18dBほど減少し、程度は小さいものの聞こえにくくなると報告されています(※1)。私たち医師が聴診器を直接肌に当てたいと考える理由はここにあります。ただし、上半身裸になる必要はありません。肌着などの下に聴診器をもぐり込ませて聴診を行えばいいからです。

どのような病気をスクリーニングするために聴診しているかというと、一つは心疾患です。心疾患は学校健診以前に発見されていることが多く、心雑音が見つかる頻度はそこまで高くはありませんがゼロではありません。呼吸音については、喘息などの慢性呼吸器疾患のスクリーニングが挙げられます。喘息は程度が軽いと本人も保護者も気づけないことがありますが、管理が不十分だと学業成績が低下したり、欠席日数の増加につながるとの報告もあり(※2)、子どもたちの健やかで有意義な学校生活のためには早期発見が重要です。

※1 Kraman SS. Transmission of lung sounds through light clothing. Respiration. 2008;75(1):85-8.
※2 Gracy D, Fabian A, et al. Missed opportunities: Do states require screening of children for health conditions that interfere with learning? PLoS One. 2018;13(1):e0190254.

医師がノートにメモ書きしている手元
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衣服で隠れる皮膚を視診する

皮膚トラブルがないかどうか、虐待がないかどうかを視診でチェックする際も、やはり目に見える範囲が広くなる薄着のほうがいいといえます。特に虐待によるあざは衣服で隠れる部分に多いので、体操服などを着ていたら見つけづらくなるのです。

皮膚トラブルでもっとも多いのは、アトピー性皮膚炎などのコントロール不良の湿疹です。こうした湿疹のあるお子さんがいた場合、定期的に皮膚科または小児科に通院しているかどうか、その情報を学校が把握しているかどうかを確認し、受診歴がない場合には学校からご家族に受診を促すよう伝えます。

虐待に関しては数は多くありませんが、あざなどが見つかることがあります。ただ虐待の痕跡を見つけても、健診は短時間ですし、子どもは信頼できる相手でなければ正直に話すことが難しいでしょう。それでも身体や頭髪や衣服などの状態、本人の様子を見て、暴力やネグレクトなどを疑うきっかけになることはあります。また健診の機会が定期的に設けられていることで、子ども自身が虐待を受けていることを相談するきっかけにもなりうるでしょう。