側弯症は脱衣のほうが見つけやすい

もう一つ、視診により見つかるのが運動器の異常です。2016年から開始された「運動器検診」は背骨が左右にねじれ曲がる側弯症そくわんしょうを含む背骨の病気、胸部が凹む漏斗胸ろうときょうなどの胸郭の異常、手足など四肢の異常を見つけるためのもの。

このうちもっとも多く見つけられるのが、側弯症です。生まれつきの場合もありますが、8割以上は「特発性側弯症」といって思春期に進行するもの。11歳以上の女性に多く、早期発見できないと手術が必要になることもありますが、進行が緩やかなために見つけづらい点が問題です。そのため学校健診で定期的に、肩の高さ、肩甲骨、ウエストラインの左右差を評価し、前屈したときの肋骨隆起(背中の高さの左右差)を確認します(※3)。その際、服を着ている状態だと評価が非常に難しくなるため、脱衣が望ましいとされているのです。

でも、本当に服を着ていると評価が難しいのでしょうか。もしも体操服を着たままでも同じなら、それに越したことはありませんね。ある研究によると、小中学校の健診時の着衣状況と側弯症の発見率を調査した結果、タンクトップなどの下着で健診を行った女子における発見率は2.8%だったのに対し、体操服で健診を行った女子における発見率は0.5%と明らかに低い結果でした(※4)。やはり体操服を着たままで側弯症を見つけるのは難しいことがわかります。ただ、脱衣といってもブラトップやタンクトップなどの下着を着ていてもいいですし、側弯症の場合は背中が評価できればよいので前は隠していても問題ありません。

※3 運動器の健康・日本協会. 学校での運動器検診の手引き[1]. 検診のための準備印刷物. 2020.
※4 吉直 正俊. 側弯症検診・検診環境(着衣状況)からの疑い率. 島根医学. 2018;38(3):163-8.

脊柱側弯症とみられる子供の診察中
写真=iStock.com/Alona Siniehina
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「脱衣」イコール「裸」ではない

そもそも、私は「脱衣」という言葉の解釈に、医療者と保護者との間のギャップの原因があると考えています。医療者が「脱衣」と言うとき、必ずしも「上半身は完全に裸になる」という意味とは限りません。側弯症でないかどうかの確認の際、背中側は脱衣で見せてもらえたほうが正確な診断につながります。でも今の時代、特に小学校高学年以上に対して、何の理由もなく上半身の前側まで完全にあらわにすることを求める医療者は少ないと思います。

周囲の医療者に聞いても「体操服を着たままではなく肌着で」という意味で「脱衣」と言っているケースが多いようです。ただし、漏斗胸など何らかの問題があるとき、側弯症の確認をするとき(背中側)は脱衣で見せてほしい、という意味も含まれていると思います。これが誤解されて、医療者が裸にこだわっていると思われてしまったのかもしれません。SNSはどうしてもコミュニケーションが不完全になりがちで、そのボタンの掛け違いを直さないまま議論すると噛み合わなくなります。

運動器検診を開始後、学校健診で側弯症が発見されるケースは増えています。ある研究では、運動器検診開始後、思春期特発性側弯症全体のうち学校検診で発見された割合は75%で、運動器検診開始前の44%よりも改善し、また発見時年齢も下がっていることを報告しています(※5)。学校検診は側弯症の早期発見につながっているといえそうです。

なお、運動器検診では、事前に保護者向け問診票が配布され、家庭で保護者が子どもの背中をチェックすることになっています。これは学校と家庭のダブルチェックで見落としを少しでも減らし、早期発見の可能性を高めようという試みです。

※5 伊藤田 慶, 林田 光正ほか . 思春期特発性側弯症患者の発見理由は運動器検診開始後に変化したか. 整形外科と災害外科. 2019;68(4):795-8.