QRコード決済にどうやって対抗するか
「Suicaの当たり前を超えます」。東日本旅客鉄道(JR東日本)は昨年12月10日、こんなキャッチフレーズとともに交通系ICカード「Suica」(以下、スイカ)の新しい戦略を発表した。ここでいう「当たり前」とは「移動のためのICカード」「タッチ決済」といったスイカの利用イメージを表す。新戦略ではそうしたスイカの機能を一新し、様々な生活シーンで使えるデジタルプラットフォームにしていこうというわけだ。
JR東日本が新しいスイカの戦略を発表したのは、昨年6月に公表した中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」が起点にある。コロナ禍での乗客数の落ち込みや今後の人口減少を踏まえ、鉄道やそれに付随した事業だけでなく、地域生活を応援する新しい事業領域を開拓していくのが狙いだ。それにはスイカの決済機能を強化し、移動以外に生活に便利なカードにしていこうと考えた。
もう一つの狙いはデジタル技術の進展に伴い新たに登場した決済手段への対抗策だ。欧米諸国などに比べ決済の電子化が遅れた日本は、経済産業省を中心に2018年からキャッシュレス戦略を推進し、コロナ禍とも相まって電子化が進んだ。そこで新たな決済手段として躍り出たのが「Pay Pay 」などのQRコード決済だ。さらにクレジットカード各社も「タッチ決済」を導入し、先行組だった交通系ICカードの足元を脅かすようになったことが背景にある。
スイカの新しい戦略を語る前に、現在のスイカの利用状況とその技術について説明しておきたい。
スイカが登場したのは01年で、従来の磁気切符の代替手段としてJR東日本が導入した。ソニーが開発した「FeliCa(フェリカ)(※1)」と呼ばれるカード内の半導体チップに現金の価値を記録し、無線で自動改札機の読み取り装置と瞬時に決済できるようにした。決済のスピードを速めるため前払い方式を採用し、紛失した場合に備え、記録上限を2万円に設定した。
04年には買い物にも使える電子マネー機能を追加し、06年には携帯端末にフェリカのチップを搭載した「モバイルSuica」も投入した。私鉄やバス、タクシーなど幅広く使えるようになり、総発行枚数は24年3月時点で携帯端末を含め、1億枚を突破。今も約3000万枚がアクティブに使われている。
では、新しいスイカでは何が変わるのか。一番大きな変更点はICカードの認証方法や料金計算の仕組みだ。現行のスイカはカードの入場記録をもとに自動改札機が料金を計算して運賃を差し引いているが、今度は改札機を経由してセンターサーバーとその都度交信し決済処理する。そうすることで事後払いが可能になり、2万円を超える決済にも対応できるようになる。
もう一つの大きな変更点が28年に導入する「Suica アプリ(仮称)」の採用だ。現在のモバイルSuicaアプリは専用の改札機や読み取り装置でしか使えないが、新しいアプリはQRコードの表示や読み取りができるため、これまでスイカが使えなかった地方の駅や小規模な店でも利用できるようになる。いわばICカード決済の俊敏性とQRコード決済の簡便性のいいとこ取りをしようという戦略だ。
さらに10年後には乗客数の多い都市部でICカードや携帯端末をかざさなくても乗車できる「ウォークスルー改札」を実現する考えだ。スイカ戦略を担うマーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門の濱貴之マネージャーは「具体的な技術は現在検討中」と話すが、乗客が持っている携帯端末を様々なセンシング技術で特定し、フリーパスを可能にしようとしている。
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