NHKのお得意様はソッポを向いた

大谷の中継はそれに大いに貢献したわけだが、副作用も小さくなかった。SNSでつぶやかれた批判の数々もそうだが、実際にMLB中継で放送から離れた人々もいるという事実だ。

【図表】「ニュース7」3月20日と前十週平均の特定層別視聴率比較
出典=スイッチメディア「TVAL」関東地区データから作成

個人全体や若年層での視聴率は急伸したと述べた。

同様に「スポーツに関心あり」層や「野球好き」層も、この日は視聴率を大きく伸ばした。興味深いところでは、ふだん「ニュース7」をあまり見ない「芸能人・タレントに興味あり」層にもこの日はよく見られた点だ。

その一方、大谷が登場するMLB中継を柱にしたために「ニュース7」を敬遠した人々もいる。例えば、「政治に関心あり」の全年齢層は数字を上げていたが、同女性コア層は微減に転じた。また、「地域に関心あり」や「福祉・介護に関心あり」も全年齢層は視聴率が高まったものの、女性コア層は横ばい、あるいは6割減など厳しい結果となった。いわばNHKのお得意様と思われる社会的な問題意識を持つ特定層に反感を抱かせてしまった可能性がある。

中途半端という落とし穴

ではどうするべきだったのだろうか。

「ニュース7」は1日の出来事をコンパクトに伝える使命をもった報道番組だ。情報は吟味され、適切に編集されている。そこに、究極の撮って出しである、未編集の生中継映像がどんと居座ることに違和感が抱く人が少なくなかった。

実はコロナ禍の3年間で、何度も教訓があった。

2000年4月の最初の緊急事態宣言発出時、当時の安倍晋三首相による記者会見の生中継では視聴率も落ちなかったし、視聴者の不平不満も出なかった。報道として本当に必要な措置だったと皆が認めたからである。

ところがその後ニュース内で何度も行われた、菅義偉前首相や岸田文雄現首相の記者会見の数々は全く異なる結果となった。30分ほどの会見や官邸記者とのQ&Aの間、視聴率は右肩下がりとなり、SNS上では批判が殺到したのである。

さすがに学習したのか、この半年、岸田首相はニュースの時間帯では記者会見をしていない。生中継での露出機会を増やしても、支持率向上につながらないことを学んだからかもしれない。視聴者の生理に精通することも、“聞く耳を持つ”ことの一つだろう。