成功している人は、他の人よりも才能があるのか。フォーチュン誌上級編集長のジョフ・コルヴァン氏は「私はそうは思わない。アメリカで偉業を成し遂げた著名人に取材をしてきたが、彼らの特別な能力は生まれつき備わっているわけではない」という――。

※本稿は、ジョフ・コルヴァン、米田隆訳『新版 究極の鍛錬』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

数字が並んでいるイメージ
写真=iStock.com/ankrx
※写真はイメージです

あなたは数字を何桁まで記憶できるか?

1978年7月11日、ピッツバーグのカーネギーメロン大学の心理学実験室で、のちに心理学の文献でSFと呼ばれるようになる有名な実験が行われていた。ある実験のため、SFという名の一人の学部学生が任意の数字のリストを記憶しようと座っていた。有名な心理学者ウィリアム・チェース教授と博士課程を修了した研究者アンダース・エリクソンがこの学生を被験者としていた。

SFとその他を被験者に、この二人の研究者はスパン・タスクと呼ばれる標準記憶テストを実施していた。その研究では研究者が任意に並んだ数字のリストから一秒あたり一つの数字を読み上げ、20秒後被験者は自分が覚えていられるだけの桁数を復唱するというものだった。

心理学者はこの実験を何年にもわたって実施していた。興味深いのは、被験者SFはとてつもなく長い桁数の数字を覚えることができるという点だ。

このスパン・タスクでは通常の人は7桁の数字しか覚えられない。せいぜい9桁止まりでそれ以上いくことはまれだ(この20秒後というのがそれをとても難しくしている。やってみてほしい)。チェース教授とエリクソン博士の担当した被験者の一人は、9日間、毎日1時間このテストを実施したが、けっして9桁以上いくことはなかった。そして、被験者はもうこれ以上覚えることは不可能だと訴え、この実験から辞退した。

ほとんど叫びながら、ついに22桁に到達

もっと以前に実施した同じ研究では、二人の被験者は何時間ものテストをやったのち、覚える桁数をようやく14桁まで増やすことができた。しかし、この日は特別でSFは当時新記録の22桁を記憶するように命じられていた。それはSFにとって大変つらい実験だった。

リストを読み終えるとSFは「わかった、わかった、わかった」とつぶやき、両手を3度高らかに打ち鳴らし静かになった。さらに神経を集中させているように見えた。「よしよし、413ポイント1」と叫び、深く息を吸い込んだ。

「7784」SFはほとんど叫んでいた。

「そうか、6で3だ」SFは叫んでいた。

「494……87そうか」と静かになり、「946!」また叫んだ。

あと一桁だけが残っていた。その一つが出ない。「946、ああ、946ポイント」SFは叫び声を上げていた。必死だった。ついに声を振り絞るように言った。「2だ!」ついにやり遂げた。

チェース教授とエリクソン博士は結果をチェックした。そのときドアをノックする音が聞こえた。大学内の警備員だった。実験室で誰かが叫んでいると通報があったからだ。