成功者は、生まれつき才能を持っているのではない
そうした背景を鑑みれば偉業に関する研究の成果から、「高い業績を生み出すには、SFの記憶力のように開発された一般能力はもちろん、生まれつきの著しく高い一般能力さえ必要ではない」ということを知れば最初はどうしても驚くだろう。
事実、ビジネスを含む多くの分野で一般知能と特定な能力との関連性はほとんどなく、いくつかの場合は明らかに無関係だ。記憶に関していうなら、大変すぐれた記憶力という概念を説明するには明らかに無理がある。なぜなら記憶力は生まれつきというよりは身につけるものだからだ。
ビジネスや他の分野で成功しているほとんどの人が、何か特別なものをもっているのは一目瞭然だ。しかし、それはいったい何だろう。原価計算を行うこと、ソフトウエアを考えること、カカオ先物取引を行うことといった分野で、生まれつきの才能があるとは思えない。そして、特別に思える専門能力も、実は一般的な認知能力を超えるものではないという事実はもっと信じられないことだろう。
しかし、それが偉業研究の成果が示していることなのだ。だが、その事実があまりにも直感的には、理にかなっていないのでさらなる説明を求めたくなる。
SFはどうやって22桁もの数字を覚えたのか
フランシス・ゴルトンは、高い記憶力は著名な人の大きな特徴の一つであって、記憶力は遺伝によって受け継がれる天賦の才の一つだと確信していた。
たとえば、学者リチャード・ポーソンは記憶力にかけては驚異的能力の持ち主で、一族から受け継いだ遺伝的なものだとゴルトンは主張している。しかし最近の多くの研究によれば記憶力は後天的なものであり、ほとんど誰でも身につけることのできる能力であることが判明している。
前述のSFの場合、スタート時は通常のIQと通常の記憶力だったにもかかわらず、最終的には驚異的に記憶力を伸ばしている。実は、記憶を助けるシステムを競走ランナーとしての自分の経験に基づいてつくり上げていたのだった。
たとえば、22桁目の数字を思い出そうと懸命になっていたとき、彼が言いつづけていた言葉を思い出してほしい。「946、ああ、946ポイント」。なぜSFはポイントと言っていたのだろう。
その数字の少し前のほうでは、同じように「413ポイント1」と言っていた。9462という数字を、9分46秒という時間に読み換え、2マイル走った際の素晴らしい記録とみなしていたのだ。同様に、4131と聞くと、それは1マイル4分13秒と考えていたのだ。
これは研究者が記憶検索システムと呼ぶものだ。このことは本書の中でのちに、とくに重要性をもつものとして記述するつもりだ。記憶検索システムを自ら生み出すか研究者に教えられることで、膨大な記憶力を手にできることをSFや他の多くの調査研究が示している。