平均的な知能の人間でも記憶力は鍛えられる

SFの業績はいくつかの点で重要だ。SFの22桁の記録は長くもつことはなく、SFは次々と新しい記録を塗り替え、最終的には2年間と250時間の訓練ののち、82桁の数字まで覚えることができるようになった。これがどれほど大変なことかよく理解してもらうため、次の数字を誰かに一秒に一つずつ読んでもらい覚えられるか想像すれば十分だろう。

8372689278627925089836840804262891999639277821343171896518246575291445264378535087

このリストを一度聞いただけでは正しい順番で思い出すことはどう考えてみても不可能なように思えるだろう。しかし訓練を始める前、SFの記憶力は平均的なものだった。学校の成績はよかったが、知能テストの成績は平均的だった。SFに関するどの情報にも驚異的記憶力を発揮するようなものはなかった。

82桁で訓練はやめたが、訓練の進行状況をみるかぎりSFが能力の限界に達したという証拠は、その時点では一切みられなかった。SFの友人の一人がチェース教授とエリクソン博士の被験者となるが、その被験者は実に102桁まで記録を伸ばした。この場合もまたその時点で彼の記憶力が限界に達したという証拠はみられなかった。これを受け、チェース教授とエリクソン博士は次のように結論づけている。

「練習を積めば、記憶技術の改善に限界はないように思える」

訓練で能力が驚異的に向上する典型例

それがSFの実験における一つの重要な発見だ。つまり一般的能力でみれば、平均的な人が想像もできないくらいのレベルにまでその記憶力を高めることができるのだ。SFがどうしてできるようになったかが決定的に重要だが、それはのちに述べることにしよう。

2番目に重要なのは、この実験がエリクソンの心の中に一つの種を植えつけたという点だ。エリクソンはそののち偉業研究の分野で傑出した研究者になっていく。エリクソンは、SFのケースは「普通の成人が目を見張るばかりの潜在能力を発揮したり、訓練で能力が驚異的に向上したりする典型的な例だ」と言っている。これこそがエリクソンのこれまで40年間の研究テーマとなっている。

エリクソンは記憶の研究分野をはるかに超えて偉業研究を行ってきた。しかし、すべてはSFから始まったことを述べておくのは大切だろう。なぜならば、記憶力は、知能同様、偉大な業績を生み出すカギとなる力をもっていると世間では広くみなされているからだ。