一条ゆかり

1949年、岡山県玉野市生まれ。集英社の第1回「りぼん」新人漫画賞準入選・受賞作「雪のセレナーデ」で68年雑誌デビュー。売り上げ累計2500万部を突破した『有閑倶楽部』をはじめ、『デザイナー』『砂の城』『正しい恋愛のススメ』など代表作多数。現在、雑誌「コーラス」(集英社)で連載中の最新作「プライド」で、2007年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。同作は映画化されて今年公開された。サウスポーの一条さんの銘は「左手に仕事、右手に愛」。両方得てこその人生と笑う。


 

高校生でデビューして以来、40年がたちました。マンガはずっと自分が好きなものを描いています。漫画家になったのは人を喜ばせようと思ったわけでなく、自分が好きなものを描きたいから。一番になりたいとか、人気者になりたいとも考えませんでしたね。むしろ私が好きなものはたぶん人気が出ないだろうと。あまりにも少女マンガっぽくないし、好みが偏って歪んでいましたから(笑)。

なので、20歳のときに人が賞賛してくれそうな作品を描くか、人が何と言おうと自分が好きなものを描くかを、将来のためにちゃんと決めようと思ったんです。そこで好きなものを描くと決めてできたのが『風の中のクレオ』という作品です。

それ以降は、好きなものを描き続けるために1位になろうと思いました。編集者に頼んで毎号アンケート結果を見せてもらって、自分がどうしても譲れないこと以外は読者の目線に合わせようと努力しました。好きなことを貫き通すには、やるべきことは注意深くやって好きにしようと。後で、当時そんなことを考えていた漫画家は私だけだったと聞いてびっくりしましたね。

今でも好きと言ってくれるファンが多い『デザイナー』という作品は、編集と打ち合わせもせずに、本当に遠慮せずに描いたマンガです。当時ではめずらしく仕事をする女の人をきちんと描こうと思いました。「自立したいんならちゃんとしなさい。人を貶めるな、自分が上がれ」と。そうしたら人気が出たんですね。そこで初めて「ああ何だ、私、好きにしてもいいんだ」と思いました。それからはずっと好きにしています。

今年の夏に長年住んだ吉祥寺から西荻窪に引っ越しました。私は年をとったら「駅のそば、友達のそば、医者のそば」と思っているんです。

年をとればだんだん出不精になりますから、出かけやすいように駅のそばに。周りに病院があって、一人で病院まで行けなくなっても、友達に担いでいってもらおうと環境を整えたんです(笑)。物事に興味を持てなくなってきたら、それが老化の始まり。いろんなことに興味を持てる環境に自分を置いておかないとダメだと思って。私が町を選ぶテーマは「作務衣を着て歩ける町」。作務衣は私の仕事着でもあるし、部屋着、お出掛け着とオールマイティ。西荻の凝り固まってない、何でも許してくれそうなところが好きですね。

引っ越す前から通っている、この2軒はすごくコストパフォーマンスがいい店。もちろん都心にはもっと高くておいしい店はあるけれど、気軽に行けて友達にも自慢できるバランスのとれた店です。どちらもすぐにお客の顔を覚えて、ちゃんと好みを覚えてくれる、地元のお店として最高なんですよ。