杉本 彩
1968年、京都府生まれ。87年に東レ水着キャンペーンガールとしてデビュー。バラエティー番組「ウリナリ」の芸能人社交ダンス部のメンバーになり、ダンスの才能を開花させる。その後アルゼンチンタンゴダンサーとして活動を始め、現在はダンサーとしてショーも公演。一方で、コスメブランド「アンデスティノ」のプロデュースを手がける。小説『インモラル』『京をんな』(ともに新潮文庫)、『インテリジェント・セックス』(祥伝社)などを上梓。作家としての顔も持つ。
男性との食事は、次のステージの前戯だと思っています。そこで2人の楽しい時間を共有できれば、もっとお互いのことを深く知りたくなるでしょ。お店やメニューの選び方、エスコートの仕方を見れば、その人のタイプも大体わかります。知識はあるに越したことはないけど、それをひけらかされるのはうっとうしいだけ。それより大事なのは、相手を思いやって心地よくしてくれる能力があるかどうか。女性の好みや体調などに配慮しながらリードしてくれる人なら、その先はどうやって私を悦ばせてくれるのか、期待が高まるというものです。
そんな話を、一緒に食事する男性にすると、怖がられますけどね(笑)。
私が女であることに目覚めたのは、中学2年生のころ。大人の世界に憧れ、好奇心旺盛だった私がお付き合いしていたのは年上の男性でした。そのころから、本能的に魅かれる男性は“ちょい悪”で心に傷があるような人。真面目一辺倒や、健やかに成長した爽やかなタイプは苦手です。場所も健全なところ、とくにファミリー向きなところはダメですね(笑)。
残念なのは、今の日本社会には成熟した大人が楽しめる社交場が少ないこと。なければつくろうと、年に最低3回は、タンゴのダンスパーティーを主宰しています。毎回定めるドレスコードの「セクシー」や「ゴシックエロティック」に合わせた衣装で、生バンドの演奏をバックにお酒を飲みながら、踊りたい人は自由に踊り、大人ならではのディープな時間を過ごします。
以前は社交ダンスをやっていたこともありますが、どちらかというとスポーツに近く私には健全すぎでした。それよりも、アンモラルな雰囲気のタンゴが性に合っていたみたい。
タンゴはあらゆる踊りの中で一番官能的で、男と女が音楽に陶酔しながら、心と体で会話をするのが醍醐味。男性は常に一歩先を読んで女性をリードし、女性は男性に全神経を集中させながら気を読んでリードに従います。その関係性がうまくいったときの快感は、言葉では言い表せないほど。「ベッドを共にする以上の快楽があったんですね」とおっしゃる方もいます。
タンゴで男女の役割を意識すると、恋愛観も変わります。私は根が男っぽい性格なので、ついなんでも仕切りがちでしたが、男性に従う悦びと、その関係性のビジュアル的美しさに気づきました。男性は、女性が女性らしく振る舞うには、自分のリードがいかに大事かを自覚できるようになります。
タンゴの世界では私もまだまだ子ども。人生経験を重ねた60代や70代の人たちが醸し出す深い味わいには敵いません。その境地に至るため、これからもっと濃密な経験を積んで、成熟していきたいです。