高い知力を身につけるには、どうすればいいのか。コンサルタントの山口周さんは「相手の話を聞いて『要するに○○でしょ』とわかったフリをしないほうがいい。それではせっかくの成長の機会を逸してしまう」という――。

※本稿は、山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

ソクラテス(紀元前469~紀元前399)
古代ギリシアの哲学者。デルポイで受けた「ソクラテス以上の賢者はいない」という神託を反証するため、様々な賢者と対話を繰り返した。しかし、対話を繰り返すうちにそれらの賢者は自分の話すら完全には理解していないことに気づき、やがてそれら「知者を気取る者の無知」を暴くことをライフワークとするようになった。
ソクラテス(写真=アルテス博物館蔵/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
ソクラテス(写真=アルテス博物館蔵/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

 

人は「わからない」からこそ成長する

無知の知とは、平たく言えば「知らないということを知っている」ということです。なぜこれが重要かというと、そもそも「自分は知らないのだ」という認識を持てないと学習がスタートしないからです。当たり前のことですが「僕はわかっているもんね」と考えている人は知的に怠惰になってしまう。「自分はわかっていない」と思うから調べたり、人に話を聞いたりという努力が駆動されるわけです。

これを達人=マスタリーへの道として整理すると、次のようになります。

①知らないことを知らない
②知らないことを知っている
③知っていることを知っている
④知っていることを知らない

「知ったかぶり」は学びの欲求が生まれない

最初の「知らないことを知らない」という状態はスタート以前ということになります。「知らない」ということすら「知らない」わけですから、学びへの欲求や必要性は生まれません。ソクラテスが指摘したのは、多くの「知者」と言われる人は「知ったかぶり」をしているだけで、本当は「知らないことを知らない」状態にある、ということですね。

次に、なんらかの契機から「知らないことを知っている」という状態に移行すると、ここで初めて、学びへの欲求や必要性が生まれることになります。

その後、学習や経験を重ねることで「知っていることを知っている」という状態に移行します。「自分が知っていることについて、自分で意識的になっている」という状態です。

そして最後は本当の達人=マスタリーの領域である「知っていることを知らない(忘れている)」という状態になります。つまり、知っていることについて意識的にならなくても、自動的に体が反応してこなせるくらいのレベルということです。