努力して結果を出しても、評価されないと感じる人がいる。一体なぜなのか。コンサルタントの山口周さんは「人事制度は、ほとんどの企業でうまく働いていない、むしろ茶番と言っていい状態になっている。この問題を考えるうえで、プロテスタントの『予定説』という概念が役に立つ」という。山口さんの著書『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)から紹介しよう――。
ジャン・カルヴァン(1509~1564)
フランス出身の神学者。マルティン・ルターやフルドリッヒ・ツヴィングリと並び評される、キリスト教宗教改革初期の指導者。いわゆる「長老派教会」の創始者。
ジャン・カルヴァン
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ローマ・カトリック教会にケンカを売ったルター

皆さんもご存知の通り、16世紀に始まった宗教改革は、マルティン・ルターによって口火を切られています。ルターはカトリック教会から破門され、帝国から追放されることになりますが、ザクセン選帝侯によって保護を受け、神学の研究にさらに打ち込みます。こののちルターの教えはドイツばかりか、ヨーロッパ全土へと広まっていき、やがて「プロテスタント」と呼ばれる大きな運動へとつながっていくことになります。

プロテスタントという言葉は、いまやごく普通に用いられる名詞になってしまいましたが、あらためて確認すれば、もともとは「異議を申し立てる」という意味です。これを意訳すれば、つまりは「ケンカを売る」ということで、ではその「ケンカを売る」相手は誰なのかというと、当時のヨーロッパ世界を思想的に支配していたローマ・カトリック教会ということになるわけですから、これは本当にスゴイことなんですね。時代への登場の仕方が実に「ロケンロール」です。

「贖罪符」にケチをつけた

さて、このルターの問題提起はローマ・カトリック教会にとっては、非常に「面倒くさい」ことでした。というのも、彼らの大きな財源であった贖罪符(註)に関する神学的な意味合いにケチを付けたからです。

(編註)信徒がこれを購入することで、罪の償いが免除されるとした証書

実はこの時期、贖罪符については、ローマ・カトリック教会の内部でも「アレはどうかと思うけどね」という神学者も多くて、綺麗に整理のついていない状態のまま、半ば教皇をはじめとした権力者がつくりだした「空気」に押し切られる形で販売されていたという側面があります。ルターの問題提起はそういう意味で、ローマ・カトリック教会の「痛いところ」をついちゃったわけです。