本物のプロは「知っていることを知らない」

コンサルティングのプロジェクトではよく「ベストプラクティス」をベンチマークとします。ベストプラクティスというのは「最もウマイやり方」という意味で、これを実践しているのがマスタリーということになるわけですが、このマスタリーへのインタビューはとても苦戦するケースが多い。

なぜかというと、マスタリーには「なぜこんなに上手にできるんですか?」と聞いても、「知っていることを知らない」ので、「はあ、特に何もしていないんですが……」というような答えが返ってくることが多いんですね。なので、こういう場合にはインタビューで話してもらうよりも、実際の仕事現場を見させていただいて、観察からマスタリーの秘密を引き出す方が有効な場合が多いんです。

「わかった」と思うことにもっと謙虚になるべき

私たちは容易に「わかった」と思ってしまいがちです。しかし、本当にそうなのか? 英文学者で名著『知的生活の方法』の著者である渡部昇一は「ゾクゾクするほどわからなければ、わかっていないのだ」と指摘しています。あるいは、歴史学者の阿部謹也が、その師である上原専禄から「解るということはそれによって自分が変わるということでしょう」と言われたというエピソードがあります。

ひらめいた女性のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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両者ともに「わかる」ということの深遠さ、自分へのインパクトを指摘しているわけです。私たちの学びは「わかった」と思った時には停滞してしまう。本当に「ゾクゾクするほど」わかったのか、わかることによって「自分が変わった」と思えるほどにわかったのか。私たちは「わかった」と思うことについて、もう少し謙虚になってもいいのかも知れません。