日本からGAFAMのような企業が生まれないのはなぜなのか。コンサルタントの山口周さんは「創造性が必要な課題において、日本はアメやムチを与えがちだ。だが、それらはいずれも創造性をかき立てるどころか、むしろ創造性を破壊している」という――。

※本稿は、山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

Googleの建物
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エドワード・デシ(1942~)
アメリカの心理学者。ロチェスター大学教授。内発的動機が及ぼす学習や創造性について大きな業績を残した。

創造性はイノベーションの必要条件

今日、イノベーションは多くの企業において最重要の課題となっています。個人の創造性とイノベーションの関係はそう単純ではなく、個人の創造性が高まったからといってすぐにイノベーションが起きるわけではないのですが、ともあれ「個人の創造性」が必要条件の大きな一部であることは論をまちません。では、個人の創造性を外発的に高めることはできるのでしょうか?

この問題を考えるために、1940〜50年代に心理学者のカール・ドゥンカーが提示した「ろうそく問題」を取り上げてみましょう。まず、図表1を見てください。「ろうそく問題」とは、テーブルの上にろうが垂れないようにろうそくを壁に付ける方法を考えて欲しい、というものです。

「発想の転換」がなかなかできない

この問題を与えられた成人の多くは、だいたい7~9分程度で、下図のアイデアに思い至ることになります。

つまり、画鋲を入れているトレーを「画鋲入れ」から「ろうそくの土台」へと転用するという着想を得ないと解けないということなのですが、この発想の転換がなかなかできないんですね。一度「用途」を規定してしまうと、なかなか人はその認識から自由になれないということで、この傾向をドゥンカーは「機能認識の固着」と名付けました。

考えてみれば、例えばフェルトペンなどは、ガラス製の瓶に入れられたフェルトに有色の揮発油がしみ込んでいるので、物性としてはアルコールランプとほとんど同じです。で、実際に暗闇ではこれを立派にランプとして使うことが可能なわけですが、なかなか普通の人にはそういう発想の転換ができない、ということをこの実験を通じてドゥンカーは証明しました。