雑談めいた会議から大型企画が立ち上がる
「今度の事態は、ここ20~30年の経済のグローバル化や金融資本主義の流れが背景にある。この流れを、歴史的・構造的に検証するシリーズができるんじゃないか?」
「できると思う。前・後編の2部構成、1年後に放送という感じかな」
「面白い、やるべきだね。企画書を出す前に『事務局』へ行って話してみよう」
2008年秋。いわゆる「リーマン・ショック」の発生により世界経済は大混乱に陥った。欧米発の経済ニュースが飛び交い騒然とするなか、東京・渋谷のNHK大型企画開発センターの一角でこのような会話が交わされていた。
大型企画開発センターが手がけるのは「NHKスペシャル」や「追跡!AtoZ」「ワンダー×ワンダー」といったドキュメンタリー番組の制作だ。なかでもNHKがエース級の人材を投入し、次々に力作・大作を送り出しているのが看板番組のNHKスペシャルである。
日本を代表する大型ドキュメンタリー番組は、どのようなやり取り(会議)を経てつくられるのか。09年4月から7月まで5回シリーズで放送され、大きな反響を呼んだ「マネー資本主義」。この大作を例に制作過程を追いかけてみよう。
冒頭に登場した即席の「会議」を仕切ったのは角英夫チーフプロデューサー(以下CP、48歳)だ。角氏がいう。
「NHKスペシャルでは、9月15日のリーマン・ショックを受けて、まず緊急報道型の番組を制作・放送しました(10月11日放送『アメリカ発 世界金融危機』)。しかし僕らは、それとは別に、歴史的背景を含めて、もっと長いスパンで金融危機をとらえる番組ができるんじゃないかという話をしていました。こういうプロデューサー同士の雑談めいた『会議』から今回のような大型企画が立ち上がることも珍しくはないんです」