角氏は「社会主義の20世紀」「プーチンのロシア」など世界を舞台にした重厚な現代史ものを得意とする。同様の切り口で米国発の金融危機を解明したいと考えたのだ。企画を携えた角氏は、同じフロアにあるNHKスペシャルのヘッドクオーター、通称「事務局」を訪れた。

「ちょうどよかった。こっち(事務局)でも、金融危機の検証ものをやるべきじゃないかと話し合っていたところだ」

待ち構えていたのは事務局次長の鈴木真美(しんび)CP(49歳)だ。いささか興奮ぎみに鈴木氏がまくしたてた。

「ほかのCPたちも同じような企画を考えている。ただ、日々状況が変わっていくのが経済だから、できるだけ早く放送したい。半年後をめどに、4~5回シリーズで。角さんもこの線で企画書を出してくれないか」

NHKスペシャルには、大事件・大事故の発生直後にディレクターや記者を大量動員して短期間で制作する緊急報道型のほかに、少人数のスタッフが1~3年をかけて練り上げる通常型の番組がある。このとき、角氏ら数人のCPは通常型のシリーズを同時多発的に企画していた。

だが、事態は予想を超えた速さで動いている。そのため、「半年後」をめどにした「緊急報道型との中間的なスタイル」を事務局は構想したのである。「マネー資本主義」の制作は、このようなスクランブル態勢のもとでスタートした。