ベテランの意見に対して若手から提案続々
先日、「ワンランク上のチームに成長した」と中村氏が実感した出来事があった。それは、数十億円規模のある設備投資の是非についてマインドマップを使って議論したときのことだ。この道10年のベテランで、プロフェッショナルを自負する片江智明氏の考えは会議の前から決まっていた。「儲からないし、オペレーションにも金がかかる。設備投資はやめるべきだ」。
片江氏の顔は自分の判断は絶対に正しい、という自信に満ち溢れていた。この不況期で、しかも高コスト。「収益性」という視点で見れば、すぐに結論は出たかに見えた。
しかし、課長の中村氏だけでなく若手社員からも素朴な疑問と提案が相次いだのである。「短期の収益ではなく、10~20年後はどうだろう?」「取扱量を増やしたら、案外採算とれる?」「コンペティター(他社)の動きは?」「もし、設備投資しなかったら、将来どんな事態が起こる?」「投資することのリスクって?」。あらゆる角度から矢が飛んできた。そして、そのことによって自然と思考する範囲が広がり、全員が気づいた。
「(短期の)収益性は重要な柱(枝)のひとつだけれど、もっとよく考えたらそれは全体の4分の1程度の狭い範囲の議論だった」と。そして、リスク対策の具体案も次々に挙がり、設備投資を実行することが決定された。
気になるのは結果的に自分が自信を持って語った意見が覆された形のベテラン片江氏がどう感じたか、である。
「マップを見れば自分のステレオタイプ化した考えは、全体のほんの一部にすぎないことは一目瞭然でした。『そんな切り口があったのか』と気づくと同時に、凝り固まった自分の頭が柔らかくなる感覚がしました。だから反発心はなく、人の意見を素直に受け止められましたね」
いくらベテランでも、ときには思い違いや見込み違いはある。口頭のみの会議ではそうしたミスが見逃されても、マインドマップなら、そんな「?」な部分が浮かび上がってくるのである。