職場でのコミュニケーションは難しいものだ。例えば、会社の部下が全員自分のことを嫌いだった場合に、上司はどのように工夫し、信頼回復に努めていけばいいのか。社員全員から「会社に行くことが楽しみじゃない」と告げられたランクアップの副社長・日高由紀子さんは「泣きそうになりました。社長の岩崎さんと私、もう、何も話せませんでした。こんなこと、あるの? って、信じられなくて……」と当時を振り返る――。

アンケートであかるみになった社員たちの本音

それは、あまりにも残酷な数字だった。マナラ ホットクレンジングゲルなどを展開する化粧品メーカー・ランクアップは今から遡ること9年前(2014年)、業績が好調なこともあり、働きがいのある会社を調査する「組織サーベイ」を受けた。「組織サーベイ」では、社員全員が会社や経営者に対するアンケートに答える。一般社員の本音が白日の下になる機会でもあった。

副社長の日高さん(47)は、苦笑いをしながら結果を語る。

「経営層は言うこととやることが一致していますか? の問いに対し、『いいえ』が94%、この会社の人達は仕事に行くことを楽しみにしていますか? という質問には、「いいえ」と答えた率が100%。泣きそうになりました。社長の岩崎さんと私、もう、何も話せませんでした。こんなこと、あるの? って、信じられなくて……」

岩崎裕美子さん(55)と日高さんの前に突きつけられた、紛れもない社員の本音。この結果は何年も話題にできなかったと、日高さんは振り返る。それほどの衝撃だった。

副社長 日高由紀子さん/大学卒業後入社したダイレクトマーケティング専門の広告代理店で、現在のランクアップ代表取締役の岩崎裕美子氏と出会い、2005年ランクアップを共同で設立。2020年に取締役副社長に就任。
写真=編集部撮影
副社長 日高由紀子さん/大学卒業後入社したダイレクトマーケティング専門の広告代理店で、現在のランクアップ代表取締役の岩崎裕美子氏と出会い、2005年ランクアップを一緒に設立。2020年に取締役副社長に就任。

経営層だけが気づかずにいた「暗黒時代」

ランクアップは2005年、岩崎さんと日高さんが2人で起業。翌年に販売を開始した「マナラ化粧品」が多くの女性の支持を受け、売り上げは右肩上がりに。労働環境の整備にも力を入れ、残業なしで18時には終業、福利厚生を充実させ、子育て支援制度を創設、リッツカールトンなどの高級ホテルで食事会を開くなど、社員が働きやすい環境を作ってきた自負があった。

「なのに、この結果は、何?って。でも、まだこの時は、自分達のせいだとは思っていなかった。一体、何が原因なのかと探っていました」

前職の広告代理店で上司と部下の関係だった2人は「自分達が理想とするものを作りたい」とランクアップを設立。男性社会に苦しんだ経験から、「女性が一生、働き続けることができる会社にしたい」という、強い思いがあった。

ランクアップは年々業績を伸ばし、規模を拡大。3年目には岩崎さんが出産したこともあり、子育てをしながら働ける環境を整え、リフレッシュ休暇や時短勤務なども導入した。しかし、売り上げが順調であるにもかかわらず、なぜか会社の雰囲気は暗くなっていくばかり。体調を崩し、休職する社員が複数出たこともあり、何か打つ手はないかと模索した結果、「企業理念」と「行動規範」を作り、社員に明示した。2008年、4期目のことだ。

「研修とか朝礼とか、なるべく明るく元気よくやるんですけど、やればやるほど、みんなが暗くなっていく。考えた結果、意志の疎通がうまくいってないからかと気づいて、行動指針をつくり、私たちの目指すものを伝えていったんですけど……」

この時代は、後に社員たちから「暗黒時代」と呼ばれるようになる。