国内に12、海外に142の事業所を展開する三井物産は、人材育成を大切にする歴史を持ち、「人の三井」とも呼ばれてきた。世界経済の活力を取り込むため、どのようにしてグローバルリーダーを育てているのだろうか。
事業の主戦場が確実に海外にシフトしている
中央の演壇に立つ講師の周りを階段教室に座る34人の受講生が取り囲む。英語での講義に全員が食い入るように耳を傾け、時折講師が質問を発すると、間髪を入れず誰からか英語の言葉が跳ね返ってくる――。
5月15日。三井物産の湯河原研修センターで開催された次世代幹部養成講座(グローバル・マネジメント・アカデミー=GMA)の一コマだ。グローバルリーダー研修を英語で行う企業は珍しくはないが、驚くのはメンバーの半分超を外国人が占めていることだ。しかも国籍は14カ国にまたがる。
同社は2011年度から従来の次世代幹部養成研修を一新した。最大の特徴はアメリカのハーバード・ビジネス・スクール(HBS)と提携して独自のカリキュラムを作成したこと。マイケル・ポーター教授ら著名講師の指導によるHBSでの2週間の研修を組み入れたことだ。そしてもう一つの特徴は、参加者に本店採用の選抜組だけではなく、海外現地法人や関係会社の社員、さらには同社の取引先企業の社員も加えたことだ。
HBSでの講義の狙いは、いうまでもなく世界トップレベルの講師陣と同社が練り上げた実践的テーマについてハーバードの対話形式の“白熱講義”を通じてグローバルな経営感覚を身につけさせることにある。そして現地採用社員や関係会社の社員も加えることの意義について同社の石川博紳執行役員・人事総務部長は「海外人材の育成と日本人社員の活性化」を掲げる。
「昔の海外支店や関係会社は本社のビジネスを支える役割だったが、ビジネスのグローバル化に伴い、今は海外法人や関係会社と一緒にやっていくビジネス領域が拡大するなどグループによるグローバル経営が重要になっています。関係会社に出向している社員も増えていますし、外国籍の社員も3000人を超えるなど海外法人の社員比率も高まっている。三井物産を担うリーダー像とは何かを考えた場合、単に三井物産本店を引っ張っていくだけでの人材ではいけません。事業や経営の主戦場が海外にシフトしていくことを想定すると、そういう環境でリーダーになれる人材をつくっていくにはどうするのか、日本だけの視点とは異なる関係会社も含めた多様な人材の視点も取り入れた研修にしたいと考えたのです」
今年度の研修参加者の34人の内訳は本店から16人、海外支店10人、取引先のパートナー企業の社員が8人という構成だ。パートナー企業の社員にはアメリカのダウ・ケミカル社や中国の宝鋼国際経済貿易、世界最大の鉄鉱石会社ブラジルのヴァーレなど世界を代表するグローバル企業の社員たちがいる。三井物産の呼びかけで各社が送り込んできた精鋭ばかりだ。彼らを招いたのはもちろん自社の枠組みを超えた多様な社員が互いに切磋琢磨することでグローバルリーダーとしての感覚を身につけることにある。