どうすれば優秀なグローバルリーダーを計画的に育成できるか

「10%の人は職位で言えば、管理職になっているか、その一歩手前の社員。ちょうど脂が乗り切った活躍が期待される人たちであり、本社としてはその人たちをどのように強化するかが重要なテーマでもあります。そのための一つの施策として商品や業務領域を超えて数年で異動させながら経験を積ませることをやっています。今回の研修にはその中から人事あるいは各営業本部から見ても優秀だと思われる人たちが参加していますから、彼らもそれなりの自負を持って臨んでいると思います」(石川人事総務部長)

選抜人材による研修と幅広い実務を経験させる配置を通じてグローバルリーダーを計画的に育成していこうというのが三井物産のやり方だ。しかし、もともと商社マンと言えば、何はともあれ海外に放り込まれて自力で市場を開拓しながらタフネゴシエーターに育っていくのが一般的だった。あえて計画的に育成する必要もないのではと思うが、石川人事総務部長は「昔と違ってビジネスを取り巻く環境が大きく変化している」と指摘する。

「昔は一つの商品に詳しく、特定の国の言語や取引に通じたプロフェッショナルが活躍できました。しかし、今はたとえばパートナー企業のブラジルのヴァーレ自体も世界企業に成長し、公式言語をポルトガル語から英語に変えました。ヴァーレとビジネスをするには国境を越えたプラスアルファの知識・経験が要求され『ブラジルは俺に任せておけ』というのでは通用しなくなっています。また、一つの産業や商品に詳しくても、すぐに商品が陳腐化してしまうほど変化が速く、産業の高度化、複雑化が進んでいます。また、あらゆる業界が海外移転や海外投資をする時代です。相談を受けて『この業界は長いので顔と人脈は大丈夫』というだけでは通用しない。投資計画や投資環境の分析ができなければ商社マンとしての役割も果たせません。ビッグプロジェクトが増えれば、多様なステークホルダーや様々な人種がいるところで調整能力を発揮するリーダーシップも重要になります」

グローバルなビジネスの環境変化に対応し、国境を越えたリーダーシップを発揮できる人材の育成が不可欠なのだということだろう。

同社は現在、グローバル人材マネジメントを機能させる最後の仕上げともいえる人事制度の構築に着手している。現在、国・地域で異なる評価制度を統一し、グローバルな評価と異動を可能にしようというものだが、世界のすべての社員を同一の仕組みにするつもりはない。

「評価制度やそれに基づく賃金制度を標準化できれば、組織としてはやりやすい。しかし、国・地域によって労働法や年金などの社会保障の仕組みも違います。たとえばイタリアでは退職前の給与が高く、それが年金に反映される仕組みであり、その間にイタリアを離れてアメリカに異動しろといっても転勤しないでしょう。したがって国の文化に根ざした人事制度はそのまま残し、一定の上級幹部については同じ評価制度を導入していく予定です」(石川人事総務部長)

対象となる現地の幹部はゼネラルマネジャークラス以上を想定している。人事評価制度が統一されれば、能力と実績を踏まえた異動による適正配置が可能になる。当然ながら本店の部長や役員に登用される外国人も今まで以上に増えることになる。

三井物産は中期経営計画で人材のグローバル化を掲げている。その狙いは同社の経営資源を最適配分する「ポートフォリオ戦略」の進化と持続的成長にある。同社が推進するグローバル人事戦略の成否がその鍵を握っていることはいうまでもない。

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