ところで日本人の参加者は課長クラス手前の社員。海外支店の社員はアメリカ、欧州、アジア地区から選抜されたゼネラルマネジャー以上の幹部社員だ。平均年齢は40歳前後とほぼ同世代である。しかし、日本人社員にとっては半分が10カ国以上の国籍の外国人、しかも社外の人間と日本で1週間、HBSで2週間の計3週間にわたり英語で議論をぶつけ合うことになる。決して楽な研修ではない。

「社内の研修のように『ここはやり過ごしておけば楽だな』ということが通用しませんし、『ちゃんと発言しろ』と背中を押されるわけです。日本人の社員にとっては『どうしてこんなことをやらされるのだろう』と、とまどいもあったでしょう。実際に前半の研修では本店の社員より、むしろ海外の社員やパートナー企業の社員が議論をリードしていました。しかし後半になると、このままではいけないと自分の立ち位置を認識し、自分なりのやり方を見つけて積極的に発言し、リーダーシップを発揮し始めます。研修といっても小さな競争社会です。その中で自分の存在感を出せるか、出せないかが問われる。出さない限りリーダーにはなれません。そこが我々の研修で期待する重要なポイントの一つですが、結果的に期待通りの効果がありました」

「現地法人」「関係会社」「パートナー企業」という異なる出自と多国籍というカベを超えて本音で衝突し、議論し合う異文化の疑似体験を通じてグローバルリーダーシップを培う貴重な経験につながった。そしてもう一つ、石川人事総務部長は予想を超える効果も生まれたと語る。

「去年に引き続き、パートナー企業や参加メンバーから『参加してよかった』と高い評価をいただき、従来にも増して関係性が深まったことです。取引先の優秀人材と当社の社員が三週間、生活を共にしながら勉強し、公私にわたるコミュニケーションを通じて自然にネットワークが築かれる。三井に対するシンパも生まれます。たとえばコミュニケーションを通じてダウ・ケミカルと三井のミドルマネジメント同士が互いのビジネスで協働できる可能性について考えるようになります。会社同士ではなく、自立した個人同士のより深い関係が築かれたことでビジネス上の効果も期待できます」

優秀な商社マンにとって人脈形成は不可欠のスキルである。日本人社員にとっては貴重な人脈という副産物も獲得する機会となった。

もちろんグローバルリーダーや次世代経営幹部は研修や教育だけで育つわけではない。研修で培った成果を発揮できる場と権限を提供し、そこでの経験を再び研修で学び直すという教育と実践を繰り返すことで成長していく。そのためには計画的育成と配置を可能にするタレントマネジメントの仕組みが欠かせない。