海外の経営を担う1000人のデータベース
同社はそうしたグローバルな人材マネジメントの仕組みを構築しつつある。採用では国籍に関係なく世界中から優秀な人材を獲得するための活動を海外法人や日本でも積極的に展開している。海外大学出身者の日本での採用は25人前後だが、外国人を含めて現地で選考を実施するなどして採用を増やしている。さらに現地法人の優秀人材を日本の中途採用枠に応募してもらい、本体で採用することも行っている。
広く世界から採用するのは「現在のビジネスを回していくには日本人だけでは絶対数が足りない」(石川人事総務部長)という危機感からだ。これは同社に限らず、ほかのグローバル企業に共通した課題でもある。
採用と並行して取り組んでいるのが優秀人材の世界の拠点への最適配置だ。そのための仕組みとして海外拠点の経営を担うリーダー候補の約1000人のデータベースを構築。日本人や現地採用の外国人の名前と所属、職務経歴と評価結果が随時インプットされ、任用のツールとして機能している。
「現在でもフランス三井物産やアイルランドなどの経営トップに現地採用の社員を登用しています。そのほかにも海外に籍を残したまま当社の重要なポジションを任せる、あるいは海外採用社員を別の海外拠点に異動するケースが増えています。全体から見ればまだまだですが、今後海外人材の登用は増えていきます」(石川人事総務部長)
先ほど研修と配置は重要であると述べたが、3週間の次世代幹部研修は参加者の教育にとどまらず、登用のためのアセスメントも同時に受けている。
「海外採用社員も含めて3週間の研修中に我々の見た印象であるとか、行動パターンもデータベースに記録され、任用の重要な参考にしています。とくに海外採用の社員については、何日か観察していると、こういう役職を任せても大丈夫かどうかがわかります。実際に今回の参加者の中には別のところに行ってもらおうと考えている人もいます。当然、彼らも研修での行動が任用に影響することがわかっていますので、期待に応えられるように意識してやっているでしょう」(石川人事総務部長)
海外社員にとっては単なる研修ではなく、大きな舞台での活躍のチャンスを掴む競争の場でもあるのだ。海外社員に限らない。参加した日本人社員16人も「人材ポートフォリオ」と呼ぶ同社の次世代経営幹部候補の育成システムの中から選ばれた人材だ。
三井物産本店の社員は約6000人。そのうち海外領域での活躍が期待されている人が4800人。その中から入社間もない若手と40歳以上の社員を除いた1600人のうちの10%の社員が経営幹部候補に選抜されている。そして経営幹部候補の160人は、ほかの社員と違い、部門を超えた異動と配置による業務を経験する仕組みになっている。今回の研修参加者はその中から選ばれた優秀人材である。