マスコミの「勝手な役割分担」
私はこの暗黙の線引きこそが、ジャニーズ事務所を含め、さまざまな性加害問題が見過ごされてきた原因ではないかと感じている。
その根底には、刑事事件や民事訴訟になっていない性加害問題を忌避し続けてきたマスコミの報道姿勢がある。「性加害などのスキャンダルは週刊誌の仕事」という勝手な役割分担を作り出して、報道を抑制的にしてきた。
政治家が関係している場合は、テレビや新聞も日々の動きを追っている政治に直結する話となるため、週刊誌報道を起点に大々的に報道される。一方、芸能界内での性加害となると、週刊誌が大きく扱って話題になっていても、マスコミは無視をする場合が多い。
冒頭に取り上げたカウアン氏の言葉通り、性加害問題は「被害者が声を上げた時に失うものが多すぎる」。被害を訴えることによって、周囲から好機の目で見られてしまう二次被害(セカンドレイプ)に繋がる恐れがあるほか、今回のジャニーズ事務所での問題のように、加害者が社会的に、あるいは経済的に優位な立場にいる場合は、被害者は自分の地位が脅かされる可能性があるため、声を上げられないことも多い。
報道の主役はネットに移り変わりつつある
そのため、性加害は刑事事件にも民事訴訟にもならず、被害者が泣き寝入りしてしまうことがあるわけだが、こうした表に出ていない問題を発掘して世に問うことこそメディアの役割であるはずだ。
ジャニーズ事務所での性加害問題が置き去りにされてきた裏には、マスコミが自らの役割を放棄してきた怠慢がある。
一方で、今回のジャニー氏による性加害問題が再発掘されたように、報道業界自体に構造の変化が起き始めている。
問題に再び関心が集まったきっかけは海外メディアの報道や、SNS上でガーシーこと東谷義和氏がカウアン・オカモト氏の被害告白を取り上げたことで、その後もネットニュースによって多くの人々に伝播していった。
もはや多くの人々がマスコミからではなく、ネットから情報を入手するようになっているからこそ、これまでの週刊誌報道とは違い、ジャニーズ性加害問題を白日の下にさらすことができたのである。
東谷氏は名誉毀損容疑で逮捕されるなど、さまざまな問題も起こしているが、もはや報道の主役がテレビ新聞から、ネットやSNS、それも個人による発信に移りつつあることを象徴していると言えるだろう。