人脈が広い人は何をしているのか。偉人たちの酒事情に詳しいライター・栗下直也さんは「酒が飲めなかった政治家・安倍晋三は、下戸であることを逆手に取り、宴会の『いなくてはならない存在』となることで、膨大な人脈を築き上げた」という――。

※本稿は、栗下直也『偉人たちの酔っぱらい流儀』(平凡社)の一部を再編集したものです。

夜の飲み屋街
写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH
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「一滴も飲めない人たらし」安倍晋三

「安倍君、今日も車で来てる?」

お酒を一滴も飲めない安倍晋三は、いつも満面の笑みで「はい、皆さんをお連れしますよ」と答えた。安倍が勤めていた神戸製鋼では、仕事終わりに、このやりとりが繰り返された。

飲み会の運転手。一見、損な役回りに見える。しかし、この「運転手」という立場こそが、下戸の安倍を「宴席になくてはならない存在」に変え、最強の武器となった。

飲めないことは弱点ではない。使い方次第で、誰よりも愛される存在になれる。安倍が身をもって証明した「逆転の法則」である。

神戸製鋼時代の安倍について、当時の上司はこう振り返っている。

「安倍君は酒は全く飲まなかったから、仕事が終わると運転手代わりにして30分ほどで行けた姫路のホルモン焼き屋なんかに皆で出掛けて、わあっと楽しく騒いでストレス解消したものだ」。

父・晋太郎の失敗談で盛り上げる

考えてみれば、これは実に巧妙な立ち位置だ。運転手という役割を引き受けることで、彼は単なる「飲めない人」から「なくてはならない存在」へと変わる。しかも、ただの送迎係ではない。

「そんな席では、オヤジ(晋太郎)さんの失敗談を明かしたりして笑いを取っていた」というから、場を盛り上げる術も心得ていた。

有名政治家である父親の失敗談という、誰もが興味を持つ鉄板ネタを適切なタイミングで繰り出す。いくらネタを持っていても酔っ払ってしまっては披露できない。シラフだからこそ発揮できる計算された演出力といえるだろう。

衆院本会議を前に笑顔の安倍首相=2017年11月1日午後
写真=共同通信社
衆院本会議を前に笑顔の安倍首相=2017年11月1日午後