運転手は「なくてはならない存在」

ここで重要なのは、「運転手になれば全員に愛される」という法則の核心だ。

まず、運転手は「安心感」を与える存在となる。飲み会で最も心配なのは帰り道だ。終電を逃す、タクシー代がかかる、酔って道に迷う――そんな不安を「安倍君が運転手」の一言で全て解消できる。

これは単なる便利屋ではない。「安心して飲める環境」を提供する、宴席のインフラだ。

次に運転手は「終了時刻」の決定権を握れる。「そろそろ帰りましょうか」と切り出す特権がある。二次会、三次会とダラダラ続く飲み会に適度な区切りをつけられる。

これは酔った人にはできない芸当だ。しかも「安倍君を待たせている」という状況だけに、切り出されたら、誰も反対できない。

そして、毎回運転手を買って出ることで、参加者全員に小さな「恩」を売り続けられる。一回一回は小さくても、積み重なれば大きな信頼となる。酔った人は宴席で何があったか、何を発言したかは覚えていなくても、恩は忘れない。

おまけに、宴席でこちらが失言してもほとんど覚えていない。下戸にとって、これほど有利な立場はない。

車を運転する人
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自分から飲みに誘って三次会まで付き合う

安倍の人間関係構築術で最も重要なのは、「絶対誘いを断らなかった」という点だ。お酒が飲めないことを理由に飲み会を避ける人は多い。

だが、それでは人間関係を構築する重要な機会を逃してしまう。安倍は飲めない事実を受け入れた上で、それでも積極的に参加する道を選んだ。

政治家になった後の幹事長時代のエピソードも興味深い。支援者は「飲まないのに、我々を焼き鳥屋に誘って、二次会、三次会にも付き合う。名前もよく覚えてくれる」と語っている。

注目すべきは、単に誘いに応じるだけでなく、自ら誘う側に回っていた姿勢だ。これは「飲めないから付き合ってあげている」という受け身ではなく、「一緒に楽しみたい」という能動性の表れだ。

さらに、「名前もよく覚えてくれる」という証言は重要だ。酔っ払いは往々にして前夜の出来事を忘れがちだが、シラフの人間は全てを記憶している。

誰が何を話し、どんな悩みを抱えているか、誰と誰の関係性はどうか。これらの情報は、のちの人間関係構築において計り知れない財産となる。これこそが時に、飲めないことが「最強の武器」になる理由だ。