「不確かな情報」では、テレビや新聞は書けない

一体なぜ、マスコミはこの問題を放置し続けてきたのか。

そもそも日本のテレビや新聞の性加害について報道が非常に抑制的であるという実態がある。

私はフリージャーナリストとして独立するまで、新聞記者としてさまざまな事件、事故、裁判などの取材をしてきた。

性犯罪についての記事も書いてきたが、テレビや新聞などが扱うものは、刑事事件や民事訴訟になった問題に限るという印象が強い。

つまり、被害者が被害に遭ったことを警察に告発して捜査してもらい、加害者が逮捕、起訴されたものや、裁判所に被害について損害賠償を求めて提訴したものについては扱うが、それ以外については取り上げるハードルが非常に高いと感じている。

なぜなのか。

その理由の1つは訴訟リスクを新聞やテレビが過度に警戒しているからだ。

刑事事件や民事訴訟となった性加害は、加害者が逮捕、起訴されたり、裁判を起こされたりしたという事実関係が揺るぎないものとして存在しているため、テレビや新聞も報道する。

しかし、そうでない性加害については、被害者がいて被害について訴えていたとしても、それが事実であるか裏取りをすることが難しいとして、扱うのを放棄してしまうのだ。

中途半端な取材で記事を書けば、加害者側から「事実無根だ」と名誉毀損で訴えられる可能性もあるため、知らぬ存ぜぬを決め込んでいるのである。

政治家による性加害問題も多くが週刊誌発

私が全国紙政治部記者として働いていた経験からも思い当たる節がある。

2022年5月、『週刊文春』が細田博之衆院議長について、女性記者へ深夜に「今から家に来ないか」と誘うなどセクハラ行為を繰り返していたことを報じると、国会で大問題となり、野党から議長不信任決議案が提出されるなど政局化。この問題についてテレビや新聞も一斉に報道するようになった。

学制150年記念式典で、祝辞を述べる細田博之衆議院議長
学制150年記念式典で、祝辞を述べる細田博之衆議院議長(写真=文部科学省ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

だが、細田氏の件に限らず、吉川赳衆院議員の未成年女性へのパパ活疑惑など、国会議員による性加害の問題は多くが週刊誌発。それで問題が大きくなったら新聞やテレビが追いかけるという構図は常態化していた。

しかも、当時の私も含めて多くのマスコミ記者は、それを当たり前のこととして受け入れていたように思う。どこか「議員のスキャンダルについて報じるのは週刊誌の役割で、テレビや新聞は日々の政府与野党の動きを追うのが仕事」と暗黙の線引きをしてしまっていた。