入社2年目にタイ工場に日本人幹部として赴いたとき、意気込んであれこれ指示したが、現地スタッフは動いてくれなかった。私が自分の考えばかり押しつけていたからだ。現地スタッフにしてみれば、自分の声を尊重してくれない上司には従えないということだろう。その苦い経験を機に、人を動かしたいならまず相手の話を聞くことから、と考えるようになった。

1992年、子会社社長として再びタイに送り込まれた私は、本社に第二工場の建設を要求した。当時は円高の影響で業績が厳しく、「一国一工場」が原則だっただけに、無謀な提案ともいえた。

それでも、この機を逃すと将来に禍根を残すと判断し、資金の算段などできることは全部整えて、1人で社長に直談判した。大きな提案なら何人かで説明にいくのが普通だが、私は難しい提案ほど1人で実行することにしている。責任もリスクも1人で負うことになるが、単身で乗り込む心意気や情熱を買ってもらえる。そこまで腹をくくれば、提案書の文章にも情熱や思いがこもる。逆に、集団陳情では一貫した説明ができないし、思いや本気度が伝わりにくい。