ヘッドハンティングはクライアント企業と候補者の間に入って両方を結びつける仕事だ。だからコミュニケーションがすべての鍵を握ると言ってよい。

現在、仕事のやり取りは7~8割をメールで行っており、何より機密性には気をつけている。経営幹部の場合、秘書がメールを読んでいる可能性があるので、本人専用のアドレスであることを確認できるまで、具体性のない文章を書いて慎重に進める。

メールには片道通行という弱点がある。直接会って話をするときのように、相手の反応を見ながらニュアンスや言葉を修正していくことができない。不適切な表現が入っていても、そのまま伝わってしまい、いつまでも残る。もし少しでも「失礼だ」と思われたら、そこで関係確立の入り口は閉ざされてしまう。どんな読み手にも失礼にならないよう慎重に言葉を選ぶ必要がある。

初回の面談依頼メールで心がけているのは、「ぜひお会いしたい」という熱意が伝わるように、受け手の立場に立って書くこと。私も他の企業から、肉筆の依頼状を受け取ったことがある。ただし、よく見ると「肉筆風」の印刷物で、不特定多数に送っている「マスメール」だとわかり、がっかりした。相手に「自分でなくてもいいんじゃないか」と一瞬でも思われたら、その後の関係確立は難しくなる。相手を1人の人間として尊敬の念を持ち、その立場に立って考えることを心掛ければ、自ずと答えは明らかになるはずだ。

我々が紹介するのはひとつの機会であって、最終的に決断するのは雇用主と候補者である。そこでできるベストの仕事は、お互いの期待値の差をミニマムにすること。だから絶対に嘘を書いてはいけない。交渉の過程では、報酬の詳細や経営課題について、問題を隠すのではなく事実を具体的に説明し、判断の役に立つ客観的な分析を加える。この仕事は、同じクライアントからの仕事が7割を占めるリピートビジネス。口当たりのいいことだけを伝えて入社していただいても、結果的に成功しなければ、お互いにとって悲劇になる。

自分の都合を押しつけるだけではビジネスは広がらない。客観的なファクトを提示し、期待値の差を埋めることは、あらゆる局面で必要なスキルだろう。