それでは、営業成績が振るわない者を絶対に解雇できないのかというと、そんなことはない。婦人服の製造・販売会社に営業経験者として採用された社員に対し、就業規則の解雇事由に該当するとして解雇した「エイゼットローブ事件」に対する91年11月の大阪地裁の判決では、解雇権の濫用には当たらず有効とされている。
この判決でのポイントは2つある。1つ目は、設定された半期の売り上げ目標の5000万円という数字は経験者なら十分に達成可能なのに、これを大きく下回る成績しかあげられなかったこと。2つ目が特に重要で、上司の注意指導があったのにもかかわらず、営業成績を向上させようとする意欲がなかったことである。つまり、会社側としては常日頃から注意指導をしていたかどうかが問われるのだ。
しかし、注意指導を行う上司にとって実に悩ましい問題が浮上してくる。指導もゆきすぎれば、「パワハラじゃないですか」と反撃される。ましてや、個性を大切にしながら育てられ、批判や叱責に対するストレス耐性が弱い“ゆとり世代”が続々と入社してくる時代である。「ろくに注意もできないのか」と思い込み、弱腰の対応に終始する上司も現れているのが現実なのだ。
そこで参考にしたいものが表「パワハラと指導の違い」。作成した岡田代表は「本当の指導には相手を成長させる狙いがある。だから、叱るにしても『どうしてそうなったんだろうか』と、自ら考えさせるような対応になる。一方、パワハラには相手をバカにしたり、排除しようとする思いがある。だから、同じことで叱るのでも『バカヤロー、何やってんだ、そんなできの悪いやつはいらない』と自分の怒りを表現してしまう」という。
この上司の発言について、パワハラ問題に関するセミナーの講師なども務めている岩出誠弁護士は、「それをいったらパワハラに該当するという禁句がいくつかある。たとえば『やめちまえ』『死んでしまえ』『給料泥棒』『何をしてもあかん』といった相手の人格を完全に否定してしまう言葉などだ。こうした言葉を日頃口にしていないか振り返ってみてほしい」と注意を促す。
また、言葉による暴力だけでなく、威圧的な態度もパワハラに該当する。部下を指導する際に指で机をトントン叩いたりしていないだろうか。無意識のうちに「チェッ」と舌打ちをしたりしてはいないだろうか。当人にしてみたら何でもない態度かもしれない。しかし、部下にとっては精神的な圧迫を感じる行為にほかならないのだ。
※すべて雑誌掲載当時