いま水面下でパワハラに悩む社員が急増中だ。どの一線を越えるとパワハラに該当するのか? 法曹界の専門家らが、対策を含めてわかりやすく解説する。
ダメージが大きいメンタルヘルス絡み
パワハラと切っても切れない関係になりつつあるのが、メンタルヘルスの問題を抱える社員が増えていること。とくにうつ病に悩むケースが増えている。厚生労働省が発表した09年度にうつ病などの精神障害になって労災認定を申請した人の数は、09年度より209人増の1136人となり、過去最高の水準に達した。
実は、うつ病の労災認定は99年に示された「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に基づいて行われている。その指針が09年4月に見直され、新たに「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」という項目が追加された。それも判断の強度を一番強い「III」とした。労働問題に詳しい千葉博弁護士は「それだけうつ病による労災認定がおりやすくなっている」と指摘する。
何も労災の申請に至らずとも、上司からパワハラを受けて休業を余儀なくされることもある。「この場合、労働基準法の第19条でいう業務上の理由で疾病に該当するということになれば、その療養期間は解雇できなくなる。当然、休業手当を払い続ける。貴重な戦力が欠けたうえにコストもかかるわけで、会社側としては大きな負担になるはずだ」と菅谷貴子弁護士は警告する。
とはいえ、人によって精神的なストレスに対する耐性は大きく異なる。ある部下にとっては何でもない注意を促す言葉であっても、別な部下にとっては精神的なダメージになってしまう場合もある。前出の岩出弁護士は「最近の労災認定に絡んだ裁判の流れを見ていると、部下本人の性格に合わせて指導したかどうか、本人基準を重視するケースが増えてきている」と指摘する。もし、それが一般化してくるようなことになれば、部下に対する弱腰の姿勢が助長されることもありえる。
と同時に、会社サイドにとって大きな痛手になるのが、優秀な上司を処分しなくてはならなくなる可能性が高くなることだ。優秀であるがゆえに、「自分にできるのだから、部下もできて当たり前」「このくらいの試練は自分も耐えてきた」と無意識のうちに考えてしまう傾向が強い。それでふと気がつくと、部下からパワハラで訴えられていたということになってしまう。