名著が時代を超えて読まれ続けているのはなぜか。明治大学の齋藤孝教授は「どれだけ時間を費やしても空虚さが残らないのが、名著を読むことの大きな魅力だ。人生のひとつの節目であり、時間に余裕ができる60歳を機に、名著に手を伸ばしてみてほしい」という。著書『60歳から読み直したい名著70』(扶桑社新書)より、一部を紹介する――。
テーブル上の本
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娘たちの「愛情」を試したリア王は…

シェイクスピア『リア王』
福田恆存・訳、新潮文庫 (初版:1967年、改版:2010年)

シェイクスピアの『リア王』は、老いについて深く考えるために必読書です。特に60歳前後になった頃に読み返すと、その深さが一層心に響きます。

物語は、リア王が自身の王国を三人の娘たちに分け与えるところから始まります。王は娘たちの愛情を試すため、「どれほど自分を愛しているか」を問いかけました。長女ゴネリルと次女リーガンは美辞麗句を並べて父への愛を強く訴え、王の領地を受け取ります。しかし、末娘のコーディーリアは「申上げる事は何も無い」と言い、続けてこう答えるのです。

不仕合わせな生れつきなのでございましょう、私には心の内を口に出す事が出来ませぬ。確かに父君をお慕い申上げております、それこそ、子としての私の務め、それだけの事にございます。

悲しい最期を迎えた父娘から学べること

そんな真心からの言葉は父の不興を買い、コーディーリアは追放されます。しかし、領地を与えられたゴネリルとリーガンはリアを冷遇し、彼の権威を奪い去ろうと試みます。リアは次第に狂気に陥り、嵐の荒野をさまようようになります。

末娘のコーディーリアは父を助けに戻るものの、戦いのなかで捕らえられ、悲劇的な結末を迎えることに。事実を知ったリア王は、嘆き悲しみ、失意のなか、亡くなってしまうのです。

さて、この物語から、私は大きく分けて二つのメッセージを読み取りました。