この秋、トヨタが軽に参入する。「死活問題や!」とダイハツディーラー。スズキは間隙を突いて首位に返り咲くのか。そして三菱・日産が提携で目指すものは……。今、この市場から目が離せない。
<strong>三菱自動車工業 社長 益子 修</strong>●1972年、早稲田大学卒業後、三菱商事入社。2003年、同社執行役員、自動車事業本部長に就任。04年、三菱自動車代表取締役常務取締役海外事業統括就任。05年より現職。
三菱自動車工業 社長 益子 修●1972年、早稲田大学卒業後、三菱商事入社。2003年、同社執行役員、自動車事業本部長に就任。04年、三菱自動車代表取締役常務取締役海外事業統括就任。05年より現職。

日産と三菱自工の提携は、軽自動車の商品開発が主な狙いだ。益子修三菱自工社長は、「どちらからともなく自然な形で、1年を要せずに提携に漕ぎ着けました。OEMより一歩踏み込んで手を結びます」と話す。

一方の日産サイドだが、スズキとの提携の可能性はなかったのか。アンディ・パーマー日産常務執行役員は次のように言う。「いろいろな考え方があるが、結婚している相手とは恋愛はできない。少なくとも私はそうだ」。スズキとVWとの提携関係を指している。

日産と三菱自工は、EVの世界1位と2位メーカーに当たる。コア技術はリチウムイオン電池。リチウムイオン電池はエネルギー密度が小さいため、本来は軽のような小さな車に向く。

電池としては日産はNECと組み、レトルトカレー状のラミネート型を、三菱自工はGSユアサと金属缶の角型で高容量タイプを実用化させている。正極電極は、いずれもマンガン系だ。三菱自工のEV「i-MiEV」は、相川が開発した軽自動車「i」がベース車。iのリヤ・ミッドシップレイアウトは電池やパワーユニット収納に活用されているのだ。

<strong>日産自動車副社長 アンディ・パーマー</strong>●1963年生まれ。クランフィールド大学経営学博士号取得。日産テクニカルセンター・ヨーロッパ社にて車両デザイン担当部長などを経て2002年、日産自動車入社。09年より常務、11年より現職。
日産自動車副社長 アンディ・パーマー●1963年生まれ。クランフィールド大学経営学博士号取得。日産テクニカルセンター・ヨーロッパ社にて車両デザイン担当部長などを経て2002年、日産自動車入社。09年より常務、11年より現職。

両者が最先端技術であるEV分野で組めば、商品開発のバリエーションは広がる。自動車の電動化を推し進める中国などへの売り込みも有利になる。ニューヨークのイエローキャブだけではなく、多様なタイプのEVを品揃えできるようになるのだ。

益子社長は「可能性を排除する必要はありません」と、EVの協力体制構築に前向きだ。一方のパーマーも「EVに関しての三菱自工との協力関係を、否定はしません。あらゆる可能性を探りたい」と積極的である。

日産は電池メーカーとして、電池の外販を目論んでいる。将来的にはEV用電池の標準化も視野に入れている。EVをパソコンに例えると、電池はマイクロプロセッサーであり、軽の規格はOS(基本ソフト)に当たるだろう。

三菱自工がもつ、車を小さくパッケージングする技術と、日産の軽量電池の技術が融合すると、小さなEVのスタンダードにもなるはずだ。価格で勝負する韓国と中国に対し、軽という伝統のガラパゴスをベースにした一歩先をいくイノベーションで勝負できる。

震災復興において、人々の足としてなくてはならない軽自動車。トヨタ参入で国内の販売競争は激化するだろう。一方で近い将来、世界に打って出ていくことのできる技術と可能性も秘めている。別の表現をすれば、わが国独自の規格である軽自動車は、ユニークなガラパゴスであるがゆえ、新分野で世界標準を導く実力を有している。 (文中敬称略)

(田辺慎司、藤井泰宏=撮影)