この秋、トヨタが軽に参入する。「死活問題や!」とダイハツディーラー。スズキは間隙を突いて首位に返り咲くのか。そして三菱・日産が提携で目指すものは……。今、この市場から目が離せない。

「ダイハツさんが売ればいいんですよ。軽自動車については、合意した数字以上を(トヨタは)売るつもりはない」

トヨタ自動車の新美篤志副社長は話す。2011年4月22日午後、文京区後楽にあるトヨタの東京本社内。

東日本大震災の影響を受けた生産状況について、豊田章男社長らとともに緊急会見した後だった。記者団から「震災復興に伴い、軽自動車の需要増が予想されるが、ダイハツからの軽の供給を増やすのか」という質問に答えたのが、冒頭の発言である。

トラックを除く国内自動車メーカーで唯一軽自動車を扱っていなかったトヨタが、子会社のダイハツ工業から軽自動車のOEM(相手先ブランド生産)供給を受けることで合意したのは、震災発生より半年近く前に当たる昨年9月28日だった。今年秋から、ネッツ店とカローラ店をメーンに、年間6万台規模で「ムーヴコンテ」など三車種の販売を始めるというのが合意内容だ。

ダイハツの軽自動車は、トヨタの各店舗でも紹介販売という形で03年から販売されてきた。おおむね年間3万台の規模だが、これとは別にトヨタブランドとして6万台をトヨタ系販社の一部が売っていくのである。

軽比率は上昇傾向

軽比率は上昇傾向

トヨタの軽参入の背景には、国内自動車販売の低迷が続いていたことがある。その中にあっても、軽市場は安定して推移していたのだ。販売実数が飛躍しているわけではないが、バブルが崩壊して以降の20年間、毎年160万~200万台で推移している。登録車の販売台数が減っているため、軽の構成比が上がっているのだ(図参照)。

もっとも、いつまでも6万台という数字で固定化されると考える関係者は、まずいない。トヨタの軽自動車販売量は、確実に増えていくと見るのが順当だろう。

「お客様からもっと欲しいと言われれば、増やしていくしかないだろう」(トヨタ販社の関係者)という声も聞こえる。

東日本大震災により、軽自動車への国内ニーズは圧倒的に高まっていきそうだ。さらに、販売面だけではなく、軽自動車という規格そのものの価値が、高まっていく可能性が膨らんでいる。

これから、わが国では人々の価値観やライフスタイルはもちろん、ものづくり(生産活動)も変わっていくし、変えていかざるをえない。慢性的な電力不足と向き合いながら、生産活動を維持しなければならない。少ないエネルギー量で量産できる商品がものづくりの中心となっていく。無論、新たな価値を高めた技術開発を重ねながら、高品位に、である。

原子力発電の代わりに、化石燃料や自然エネルギーといった原価が高い電源を使い、しかも増加してしまう二酸化炭素(CO2)の発生を極力抑える必要にも迫られる。CO2が増加すれば、海外から認証排出量(クレジット)を購入しなければならず、国内生産におけるコスト競争力は喪失されていく。何より、電力不足なのに、火力発電への代替によりCO2が増加するというジレンマの中で、ものづくりを続けなければならないのだ。

それだけに、走行時の燃費性能が高く、生産時にもエネルギー使用量が小さい軽自動車は、これからのわが国にとっての活路であるのは間違いない。