もともと、軽自動車の存在感の高まりに伴って、トヨタの軽自動車参入、さらには日産自動車と三菱自動車工業の軽自動車開発の合弁会社設立など、軽を取り巻く環境は昨年後半から急に変化し始めていた。変化が加速している最中に、東日本大震災が日本を襲ったのである。
仙台市に本店がある若松自動車商会は、主にスズキ車を販売する業販店だ。業販店とは、地域に根を張る自動車整備業者や販売業者を指す。修理工場などを経営しながら、各社の主に軽自動車を販売するが、たいていの場合、スズキとダイハツなど複数メーカーの商品を扱う。
若松自動車商会は、業販店の中でも販売実績が高いスズキの副代理店でもある。東松島市にある同社石巻店は、いま中古車が飛ぶように売れている。特に売れ筋は、中古の軽自動車だそうだ。石巻店店長の熊谷賀二浩は言う。
「これまでに経験したことがないくらいに売れています。うちではありませんが、新車よりも高い値段で中古車を売る店舗もあるくらいです。復興のためには、必要とされる商品を揃えて、需要に応えていくことがわれわれの役割。メンバーを2人増やして、いまは七人で接客や納車の対応をしてます」
とりあえずの足を求める客で店の前に列ができたのは、震災の翌週からだった。電気が止まってしまったため、3月中はキャンピングカーの中で商談を行った。降雪もあり、寒さに耐えながら客を捌いていった。「地方は一人一台、車を保有してます。車が流されたため、税金が安く、すぐに使える軽自動車の中古が必要とされています」と熊谷。
被災地の石巻市周辺で、忙しいのはスズキ系の同社だけではない。宮城ダイハツ販売の石巻店では4月の末日、営業マンはみな出払っていた。納車や届け出手続きに追われていたために。
メーカーの生産体制が整うことが前提だが、人々の生活も落ち着いて被災地での住宅着工が進むと、「軽は中古から新車へと、ニーズが広がるのは間違いない」(関東の自動車ディーラー幹部)という。
軽自動車税は年7200円(乗用・自家用車)。自動車税は1001~1500ccの乗用車で、年3万4500円になる。
一人一台として、4人家族全員が登録車をもったなら、維持費は膨大だ。地方では自動車は必需品であり、低価格で税金が安く、燃費もいい軽はセカンドカーで主に使われている。
トヨタが軽自動車に参入した背景には、とりわけ西日本の販売会社からトヨタ本社への強い要請があった。
九州や四国など西日本では、販売台数の5割以上が軽という県は珍しくない。ネッツトヨタ南国(高知県高知市)の前田穣社長は「四国の販社が力を合わせて、トヨタに要望しました。功を奏して、トヨタブランドの軽自動車を扱えるようになったのです。これで軽を求めるお客様に応えられる体制が整った」と話す。(文中敬称略)