この秋、トヨタが軽に参入する。「死活問題や!」とダイハツディーラー。スズキは間隙を突いて首位に返り咲くのか。そして三菱・日産が提携で目指すものは……。今、この市場から目が離せない。
一方、次のような懸念も浮上している。6万台か場合によってはそれ以上の軽をダイハツがトヨタに供給することで、ダイハツは07年から続けている「軽自動車販売ナンバーワン」の座を、スズキに明け渡す結果になるかもしれない、というもの。そうなれば、スズキが頑張って逆転するのではなく、トヨタグループの内部事情によっての首位交代である。
この点を後藤は、「その事態は避けなければなりません。日本で1番高い山は、富士山と誰でもが知っている。では、日本で2番目に高い山をご存じですか。ダイハツは2番ではダメなんですよ。説得力が違うから」と危惧している。
スズキの国内販売を支えてきたのは、業販店網である。全国に5万5000店の業販店があり、このうち3400店が主力の副代理店だ。スズキの業販店依存度は、約8割と高い。1973年から06年までスズキは34年間、軽自動車のシェア1位を続けたが、これは地域の業販店のお陰でもある。軽のように販売価格が安い車は、営業マンを抱え店舗を構えたディーラーで売るよりも、地域に密着した業販店で売ったほうが店舗の維持費はかからず、効率的な面が多い。
スズキと業販店を結びつけるのは、鈴木修会長兼社長だ。“情の人”である鈴木修は「ハート・ツー・ハート」という言葉を好むが、両者の関係性は長くて深い。業販店の二世や三世には、浜松市のスズキで修業している者は多いのだ。なかには、スズキの女子社員と結婚し、地元にもどる“若旦那”もいて、鈴木修が仲人をすることもある。浪花節の文化だ。
こんな関係だからか、取引において両者はいわゆる“ドンブリ”でずっとやってきた。スズキは業販店に対して、「あるとき払いの催促なし」で応じてきたのだ。鈴木修は情の人であるがゆえ、「(業販店から頼まれると)ノーと言えない」(スズキ幹部)のである。