神宮外苑の「ご神木」をそうやすやすと伐採できない

明治神宮外苑の大規模再開発事業を巡って、騒動が起きている。多くの樹木を伐採し、ビルやスポーツ施設などを建設する計画に、住民や文化人らが反発しているのだ。環境影響評価の内容が不十分として、認可を出した東京都を相手に、住民訴訟も起きた。

秋の明治神宮外苑いちょう並木
写真=iStock.com/show999
事業者は樹木は極力、保存するというが……

本来、神宮外苑は宗教施設である。再開発の背景には、外苑の大部分を所有する明治神宮の、財政上の理由があると考えられる。他方で神宮外苑の大樹は、長い年月を経て「神々」となった。「ご神木」はそうやすやすと、伐採できないはずではあるが……。

神宮外苑とは北は新宿御苑、西は千駄ヶ谷、東は赤坂御用地、南は青山通りに囲まれた広大なエリアを誇り、新宿区、港区、渋谷区の3区にまたがっている。内苑にあたる明治神宮本体に対し、外苑は500メートルほど東に離れた飛地になっている。有名なのは、晩秋に黄色に色づく美しい銀杏並木だ。青山通りからの眺望は、東京の秋を代表する風景になっている。

その、広大な外苑エリアが2030(令和13)年に一変するという。現在の神宮球場・第二球場と秩父宮ラグビー場が入れ替わるような立地構造になり、軟式野球場のある場所にテニス場が移動する。都内でもこれだけ大規模な再開発は、そうあるものではない。

近年には大手町や日本橋エリアなどでも大規模再開発事業が行われ、渋谷エリアは現在進行中である。だが、こうした商業地と神宮外苑の開発が一線を画すのは、外苑には長年かけて育った多くの樹木があることだ。

再開発では3メートルを超える樹木は700本以上、低木を含めればおよそ3000本の樹木が伐採される予定という。

計画に周辺住民らは「歴史的な木が伐採され、景観を損ねる」「説明が不足している」などとして反発している。今年3月に亡くなった音楽家の坂本龍一氏や作家の村上春樹氏らが、神宮外苑の再開発に反対を表明して、話題になった。

事業者は、樹木は極力、保存し、移植に努めると主張する。同時に、新しく植えることで全体の本数は増やすというが、本数の問題ではない。年月を経て育った巨木と、新植の木とはまったく意味合いが異なる。森林において木の数が多いということは、未成熟の森ということ。最初はスギやヒノキなどの針葉樹が中心の森の樹木は淘汰とうたを経て、数を減らし、最終的にはクスノキやカシなど広葉樹の巨木が立つ成熟した森となる。