「ご神木を切れば災いが起きるかもしれない」

明治神宮は、大都会における緑のオアシスであり、祈りの場である。健全な経営体質を維持し、持続可能な神社として未来永劫えいごう、継承していかねばならない日本の財産である。そのための再開発事業自体は、否定しない。

問題は、外苑の杜の保全をどうするかだ。外苑に植えられた樹木は182種、約3万4000本に及ぶ。ちなみに銀杏並木は1923(大正12)年に植栽されたものである。ゆうに1世紀を経なければ、実現しない景観なのだ。

しかも神宮外苑の緑は、ただの林ではない。いわゆる、神社における「鎮守の杜」である。鎮守の杜に育った大木は、自然崇拝の対象となる。樹木そのものが神の依代よりしろ(神霊が寄り付く対象物)となるのだ。

したがって、各地の神社境内の巨木にはしめ縄が張られ、崇められている。都市開発だからといって、おいそれと伐採できる性質のものではない。

たとえば、大阪府寝屋川市にある京阪電鉄萱島駅では、地上から推定樹齢700年のクスノキの大木がホームのコンクリートの床と天井を貫いて生えている。このクスノキはガラス壁で覆われている。一切、クスノキを傷つけないように駅舎が建てられているのである。幹にはしめ縄がかけられ、「クスノキに寄せる尊崇の念にお応えして、後世に残すことにした」との看板が置かれている。

1972(昭和47)年、京阪電鉄は高架複々線工事に着手、萱島神社のあった場所にホームが移動することになった。クスノキは伐採される予定だったが、住民運動が起きて保存されることになった。この際、「ご神木を切れば災いが起きるかもしれない」などとの噂が立った。

クスノキがホームを貫く萱島駅
撮影=鵜飼秀徳
クスノキがホームを貫く萱島駅

これは祟りを恐れての措置、と見ることができそうだ。鉄道会社は、常に人命を預かっている。仮にクスノキを切って、その直後に不慮の事故があれば、きっと祟りと結び付けられたに違いない。

もっといえば、大手町の再開発時は、三井物産本社の建て替えの際に、将門塚(平将門の首塚)が手付かずのまま保全された。これは、過去に2度、当地の再開発で将門塚を撤去しようとした際に、多くの関係者が不慮の死を遂げたことが背景にあると察することができる。

三井物産本社工事中、ガラスケースで将門塚が「保護」されている様子
撮影=鵜飼秀徳
三井物産本社工事中、ガラスケースで将門塚が「保護」されている様子

翻って、今回の神宮外苑の再開発はどうか。事業者たちに、鎮守の杜に対する崇敬の念はあるのだろうか。

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